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名古屋大学大学院環境学研究科特任助教 平春来里

A. 洋上風力発電の基礎構造物が人工魚礁として機能し、周辺の生物多様性を局所的に高めることは、欧州・北海における複数の短期・長期調査によって実証されています。付着生物の定着を起点とした食物連鎖の形成が、プラスの影響として確認されています。一方、漁業資源全体への波及効果(生産効果)については証拠が不十分であり、日本近海における影響はデータ蓄積の途上にあります。

解説

人工魚礁の効果に関する研究は1980年代から蓄積されていますが、洋上風力発電に付随する人工魚礁の研究は2000年以降から散見されるようになりました。日本で設置される人工魚礁は例えば1のようなものであり、周辺の海洋生物に対して新たな生息環境を提供します。

1 人工魚礁のイメージ(保護礁の例)[1]

洋上風力発電のうち、海底に杭を打ち込むタイプの着床型洋上風力発電は、海底に洗掘防止のための構造物1洗堀防止工(せんくつぼうしこう):波や水の流れによって、水際構造物の地盤が削り崩されるのを防ぐためのもの。帆布、アスファルトマット、ゴムマットやコンクリートブロックが用いられる[2]を建設します。これが人工魚礁と同様の役割を果たす可能性があります。そのイメージ図を2に示します。

2 洋上風力発電(モノパイル式)の基礎部分に創出される人工魚礁のイメージ[3]

一般的な人工魚礁はコンクリート・石・金属など様々な材料でつくられ、その形状も様々です。一方、洋上風力発電の人工魚礁の場合は、洗堀防止のための構造物であるため、基本的には石で構成されます[4]。また、タワー部分を含めると、新たな海洋生物の生息環境は垂直方向に広がります。着床型の洋上風力発電は、比較的軟質な海底に建設されるため、硬質である洗掘防止構造物は、海底の生態系に対して新しい硬質基質を提供します[5]。洋上風力発電の海底構造物には底生魚種(カレイ科やササウシノシタ科のヨーロッパツノガレイ、ウシノシタ、クロガレイ、スズキ目イカナゴ科のイカナゴ等)や底層中層魚種(タラ科のミナミタラや大西洋ダラ、アジ科のマアジ等)が高密度で生息していると言われています[6] [7]

人工魚礁の魚礁効果を議論するうえで、「誘因効果」と「生産効果」を区別することが必要です。「誘因効果」とは、海域にもともと生息していた魚類が構造物に引き寄せられて集まる現象であり、魚の絶対数は変化しません。「生産効果」とは、構造物の存在によって海域全体の生産性が上がり、魚の総量が実際に増加する現象を指します[8]

人工魚礁と、洋上風力発電の基礎部分を活用した人工魚礁では、ケーススタディが蓄積されているエリアに違いがあります。人工魚礁は南欧、アメリカ南西部、東アジアなど広い地域でケーススタディが豊富であるのに対し、洋上風力発電の人工魚礁は北海周辺国々に集中しています[4]。洋上風力発電の人工魚礁に関する研究のうち日本近海の事例としては台湾のフォルモサ風力発電所2 フォルモサ洋上風力発電所は海岸線から2〜10kmの地点に位置。事業の規模はプロジェクトごとにことなり、第1期のプロジェクト(フォルモサ1)は発電容量12.8万kWで風力タービンは22基、第2期のプロジェクト(フォルモサ2)では発電容量37.6万kW(47基)[9][10] [11] で2017年、2018年、2025年に、人工魚礁への魚類群集の空間的・時間的変動を調査した研究が報告されています[9]

最も豊富なデータが蓄積されているのは、欧州・北海の洋上風力地帯です。初期のころの研究として、オランダで2007年〜2009年に実施された洋上風力発電事業3 調査対象であるThe Offshore Wind farm Egmond aan Zee (47OWEZ) は2007年から稼働したものパイル式の風力タービン36基からなる洋上風力発電所。海岸線から10kmから18kmの場所に位置。の範囲内のヒラメと大西洋タラに関する調査からは、ヒラメの生息地への誘因の効果は予想よりも44%と大幅に下回っていましたが、大西洋タラに対しては一定の誘因効果がみられ長期間風力発電所内に留まることがわかりました[7]。デンマークでは風力発電所周辺で種多様性が増加し、例えばオオイカナゴの個体数が短期的に増加したという報告もあります[6]

Reubensらは、北海に設置された洋上風力の基礎構造物周辺を4年間にわたって追跡調査し、段階的な生態系形成のプロセスを記録しました[12]。まず、フジツボやムール貝などの付着生物(硬基質に定着する無脊椎動物)が構造物表面に定着し、次にそれらを餌とするカニや小魚が集まり、さらに大型魚が周辺に定着するという食物連鎖の形成が確認されました。Langhamerらも、洋上の波力発電設備を対象にした調査で、付着生物の定着が魚類の誘引に先行することを示しており[13]、この段階的なプロセスは洋上再生可能エネルギー施設に共通する現象として理解されています。

Dannheimらは2020年に、欧州各地の洋上構造物(風力発電・石油・ガス施設を含む)周辺の底生生物データを統合したレビューを発表しました [14]。このレビューは、モノパイル基礎が局所的な生物多様性を高めることを「実証済み」と結論付ける一方で、生態系レベルへの影響については「証拠が不十分」と指摘しています。同年にDegraerらが発表した北海全域を対象とした統合解析では、洋上風力構造物が有機物の移動や栄養段階の構造にまで影響を与える可能性が示されました [3]。魚が集まるだけでなく、海域の物質循環そのものが変化することが示唆されています。

2003年から2024年までに実施された、包括的なレビューによると、局所レベルでの誘因効果は実証されているが、漁業資源全体への貢献を示すエビデンスの強度は限定的だと言われています[15] [16]。生産効果については長期的・広域的なモニタリングが不足していることが課題として指摘されています。

上記の研究の多くは北海という特定の海域で得られたものです。北海は水深が浅く、砂泥底が広がり、強い潮流と低水温という特性を持ちます。これらの環境条件は日本の沿岸とは大きく異なります。最後に日本周辺の国々での知見の蓄積と、日本での取り組みの状況を紹介します。

冒頭で紹介した台湾のフォルモサ洋上風力発電所における研究によると、洋上風力発電の人工魚礁から50mという極めて狭い範囲内で、新たなサンゴ礁生息地が創出され、従来は捕獲されなかったサンゴ礁関連魚類が増加することが確認されました[9]。この結果は、地域の魚類群集構造に対する変化を意味している点で、漁業にとっては懸念材料にもなりうるものですが、種組成の変化は杭から約50m以内の領域に限定されています。それより広い範囲には、従来から生息する底生生物群集が変わらず生息していることが確認されました[9]。また研究では、洋上風力発電所が建設される15年前に設置された人工魚礁と、2017年から2019年に建設されたモノパイル式の洋上風力発電に伴い創出される人工魚礁の魚類集積効果を比較しています4 Shaoら(2026)はモノパイル式の洋上風力発電所に隣接して、2019年から2023年の間に建設されたジャケット式の洋上風発電所の基礎部分周辺の魚類生息環境についても、2025年の調査では対象に含めているが、ジャケット式は石を積み上げてつくる洗掘防止工がないため、人工魚礁としては機能しにくい。したがって、15年前に設置された人工魚礁との比較はモノパイル式の洋上風力発電にかぎっている。。洋上風力発電の人工魚礁は専用に建設された人工魚礁と同等の機能的成熟度(種レベルの栄養段階)をおよそ8年という短い期間で達成することを示唆しています[9]

日本の研究としては、長崎県の稼働中の浮体式洋上風力発電で、係留設備の周辺に魚類があつまるかどうか(蝟集効果)について調査した研究があります[17]。年間を通して風車近傍区ではマアジが集まる傾向があることが確認されました[17]。この知見はこれまでレビューしてきたモノパイル式の着床式洋上風力発電の魚礁効果とは異なるメカニズムによる蝟集効果ですが、今後も多くの魚種を対象とした網羅的な調査を実施され、知見が蓄積されていく見通しです。

海洋水産技術協議会[18]は欧州の知見を日本海域に適用するための評価手法の検討を進めていますが、国内の長期モニタリングデータは現時点では乏しい状況にあります 。ヒラメ、マダイ、スズキなど日本近海の重要漁業対象種が洋上風力構造物にどう反応するか、また台風や急峻な海底地形が生態系形成に与える影響については、今後のデータ蓄積が不可欠です。

参考文献

[1] 水産庁漁港漁場整備部, 2026, 「Fisheries Infrastructure Department―海を仕事に。」(2026年7月28日取得, https://www.jfa.maff.go.jp/j/recruit/index/attach/pdf/suikou-13.pdf)

[2] 極東建設株式会社, 2026, 「土木用語集:洗堀防止工」(2026年7月27日取得, https://www.kyokuto-k.co.jp/glossary/14se/062.html)

[3] Degraer, S., Carey, D. A., Coolen, J. W. P., Hutchison, Z. L., Kerckhof, F., Rumes, B., and Vanaverbeke, J., 2020, Offshore Wind Farm Artificial Reefs Affect Ecosystem Structure and Functioning: A Synthesis, Oceanography, 33(4): 48–57.

[4] Glarou, M., Zrust, M., and Svendsen, J. C., 2020, Using artificial-reef knowledge to enhance the ecological function of offshore wind turbine foundations: implications for fish abundance and diversity, Journal of Marine Science and Engineering, 8(5): 332.

[5] Langhamer, O., 2012, Artificial Reef Effect in relation to Offshore Renewable Energy Conversion: State of the Art, The Scientific World Journal, 386713.

[6] Leonhard, S., Stenberg, C., and Støttrup, J., 2011, Effect of the Horns Rev 1 Offshore Wind Farm on Fish Communities: Follow-up Seven Years after Construction, Report by Danish Hydraulic Institute (DHI), Report for Vattenfall.

[7] Winter, H. V., Aarts, G., and van Keeken, O. A., 2010, Residence time and behaviour of sole and cod in the Offshore Wind farm Egmond aan Zee (OWEZ), IMARES, Wageningen YR report.

[8] Bohnsack, J. A., 1989, Are high densities of fishes at artificial reefs the result of habitat limitation or behavioral preference?, Bulletin of Marine Science, 44(2): 631–645.

[9] Shao, K. T., Chang, C. H., Chen, C. Y., Ho, L. T., Shao, Y. T., Chiang, H.-C., Lee, W.-N., Tsai, H. J., Huang, T.-Y., and Chang, C.-Y., 2026, Spatio-temporal dynamics of fish assemblages at an offshore wind farm and a comparison with mature artificial reefs, Frontiers in Marine Science, 13: 1733177.

[10] 北陸電力, 2022, 「事業領域 フォルモサ1洋上風力発電事業(台湾)」(2026年7月29日取得, https://www.rikuden.co.jp/international/formosa1.html)

[11] Y’s Consulting Group, 2023, 「台湾最大の洋上風力発電、JERAフォルモサ2完工(トップニュース)/台湾」(2026年7月29日取得, https://www.ys-consulting.com.tw/news/108978.html)

[12] Reubens, J. T., Degraer, S., and Vincx, M., 2014, The ecology of benthopelagic fishes at offshore wind farms: a synthesis of 4 years of research, Hydrobiologia, 727: 121–136.

[13] Langhamer, O., Wilhelmsson, D., and Engström, J., 2009, Artificial reef effect and fouling impacts on offshore wave power foundations and buoys – a pilot study, Estuarine, Coastal and Shelf Science, 82(3): 426–432.

[14] Dannheim, J., Bergström, L., Birchenough, S. N. R., Brzana, R., Boon, A. R., Coolen, J. W. P., Dauvin, J.-C., De Mesel, I., Derweduwen, J., Gill, A. B., Hutchison, Z. L., Jackson, A. C., Janas, U., Martin, G., Raoux, A., Reubens, J., Rostin, L., Vanaverbeke, J., Wilding, T. A., Wilhelmsson, D., and Degraer, S., 2020, Benthic effects of offshore renewables: Identification of knowledge gaps and urgently needed research, ICES Journal of Marine Science, 77(3): 1092–1108.

[15] Galparsoro, I., Menchaca, I., Garmendia, J. M., Borja, Á., Maldonado, A. D., Iglesias, G., and Bald, J., 2022, Reviewing the ecological impacts of offshore wind farms, npj Ocean Sustainability, 1: Article 1.

[16] Thomassen, J. A.-C., Brown, E. J., Henriksen, O., Mildenberger, T., Galparsoro, I., Clausen, N.-E., and van Deurs, M., 2025, Case-dependent impacts of offshore wind farms on ecosystems: A systematic review and metaanalysis, Ocean and Coastal Management, 270: 107853.

[17] Tsuchida, S., Kato, R., Nishitsuji-Anzai, S., Azmi, S. S., Tanaka, S., Masumi, S., Uchida, J., Aoshima, T., Hirasaka, K., Fujimoto, S., Shimizu, K., Hirose, M., and Yagi, M., 2025, Floating Offshore Wind Farms Attract Japanese Horse Mackerel, Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems, 35(7): e70189.(https://doi.org/10.1002/aqc.70189)

[18] 海洋水産技術協議会, 2022, 「洋上風力発電施設の漁業影響調査実施のために」(2026724日取得, https://www.jafic.or.jp/.assets/kaiyougijutsu.pdf