名古屋大学大学院環境学研究科特任助教 平春来里
A. 2017年に北海道の風力発電施設で絶滅危惧種コヤマコウモリの死亡が確認され、風力発電がコウモリに与える影響が問題視されています。衝突や気圧差、採餌機会の減少などが主な影響で、特に移動性が高い種で死亡率が高く、低風速な気象条件の際や、渡り期にこうした影響が集中すると言われています。コウモリは繁殖力が低く、個体数減少の回復が困難なため、他の生物と比較しても風力発電施設から受ける影響の程度が大きいと考えられています。このような影響を低減するため、欧米ではモニタリングや風車停止などの対策が進み、国主導の調査・管理体制の整備が求められています。
解説
2017年8月、北海道檜山郡上ノ国町の稼働中の風力発電施設(上ノ国ウィンドファーム、風力発電機12機)内で、風力発電機に衝突されたと推定される絶滅危惧種コヤマコウモリ5個体が発見されました。この事案を受け、日本哺乳類学会は2019年に「北海道檜山郡上ノ国町の風力発電施設における絶滅危惧種コヤマコウモリの保全に関する要望書」を上ノ国ウィンドファームの事業者に提出しています。風力発電所がコウモリ与える影響は学術界でも注視されています。
コウモリが風力発電のブレードに衝突する事例(バットストライク)は世界各地で報告されています。Arnettらは米国5地域とカナダ1州の風力発電所19施設で、発電所建設後のコウモリの死亡事故について調査しました[1]。この結果、21件の死亡事例があることが確認されました。このうち、風力発電機のブレードが原因で死亡したコウモリには特徴がみられ、移動性で樹木をねぐらとするヒナコウモリ科のイエローコウモリ属(Lasiurus)1ヒナコウモリ科は47属114種と最も種数が多い科で、アフリカ、ユーラシア、アジア、オーストラリア、北米、南米と広い範囲に分布している[2]。日本に生息するヒナコウモリ科は26種で、そのうち6割が森林をねぐらとするコウモリである(船越 2020:18)。特に長距離移動性かつ森林性のアカコウモリ(Lasiurus borealis)やシモフリアカコウモリ(L. cinereus)、シルバーコウモリ(Lasionycteris notivagans)の風車への衝突が著しく多い[2] の致死率が高いことが分かりました(Arnett et al. 2008)。また、死亡率は夏の終わりから秋にかけてピークを迎えます。風車への衝突が原因とみられるコウモリの死亡率と天候パターンとの関係を扱った研究では、風速が6m/s未満の場合にコウモリの死亡率が高く、特に嵐の前線通過の直前と直後に増加することが分かりました[1]。このことから、天候パターンの把握が、コウモリの死亡率を低下させることに重要だと言われています。2017年に実施された、鳥類やコウモリと風力発電機の衝突に関する研究の体系的なレビューによると、コウモリの衝突率は分散距離(dispersal distance)2 生態学・保全生物学の分野において「分散距離」(dispersal distance)とは、個体が出生地(または元の繁殖地)から離れて移動し、新たな生息地・繁殖地に定着するまでに移動した距離を指します。これは日常的な移動ではなく、定着を伴う移動に関する距離を表す言葉です。2に影響するということも指摘されています[3]。また、コウモリはブレードに直接接触せずとも、ブレードの回転で生じる気圧差によって、肺を損傷し死亡する可能性や[4]、コウモリ類の採餌機会に深刻な影響を与える可能性があることも指摘されています[5]。このような要因により、コウモリの致死率に風力発電機が影響することが懸念されています。アメリカでは風車による鳥類の年間死亡数は140,000~328,000 個体という推定に対し[6]、コウモリ類の死亡推定個体数は600,000〜888,000個体に達している[7][8] [9] [10]という報告や、ドイツのシュヴァルツヴァルトでは1 MW あたり年間163 個体のコウモリが死亡したという報告もあります[11]。これらの推定値はコウモリの死亡数に関する論文のレビューをもとに算出されており、研究ごとにコウモリの死骸の捜索感覚、捜索区間、残存率、状態、捜索者検出率が大きく異なることから、偏りは、調整した推定値であってもなお大きいことに注意が必要です3 例えばSmallwoodの推定では、「2014年に⽶国全土でコウモリが死亡した数は222万匹と推定されましたが、95%信頼区間は177万匹から272万匹でした[9]。この推定は、非常に大きなバイアスが存在する中で⾏われたものであり、平均値が3分の1に低下したり、最大11倍上昇したりする可能性があります」と書かれています。。死亡推定数も種ごとに異なると言われています。アメリカとカナダにおける2000年-2011年(10年間)のバットストライクによる各種の累積死亡推定数は表1の通りです[2] [12]。
表1 北米のバットストライクによるコウモリ各種の累積死亡推定数(2000-2011年)
(Arnett and Baerwald [12]をもとに船越[2]が改変)
| 種名 | 和名 | 下限値 | 上限値 |
| Eptesicus fuscus | オオクビワコウモリ | 26,000 | 52,000 |
| Lasiurus borealis | アカコウモリ | 143,000 | 287,000 |
| Lasiurus cinereua | シモフリアカコウモリ | 247,000 | 634,000 |
| Lasionycteris noctivagans | シルバーコウモリ | 149,000 | 308,000 |
| Myotis lucifugus | トビイロホオヒゲコウモリ | 51,000 | 107,000 |
| Perimyotis subflavus | アメリカトウブアブラコウモリ | 45,000 | 94,000 |
| Tadarida brasiliensis | メキシコオヒキコウモリ | 21,000 | 44,000 |
個体数の減少をどのように評価するかということは、減少した個体数の絶対値だけではなく、種の脆弱性を考慮する必要があります。大型風車から影響を大きく受けると考えられるコウモリの分類群としては、ヤマコウモリ属、クビワコウ属、ヒナコウモリ属、アブラコウモリ属だと言われています(脇・赤坂・安藤 2022)。コウモリ類の寿命は30 年以上とされ、1年あたりの産子数は1~2 個体であり[13] [14]、一度個体数が減少すると個体数を回復させることが極めて困難であるため[15]、風車による死亡個体数の増加はコウモリ類の個体群維持の上で深刻な脅威だという指摘もあります[16]。
日本では、近年コウモリと風力発電の関係に関する研究が蓄積されています。日本国内で風力発電所の立地とコウモリの衝突について、その実態を明らかにするため、ふじのくに地球環境史ミュージアムでは、稼働中の風車直下でコウモリの死骸探索調査を実施しました[17]。2017年に静岡県掛川市で2011年から稼働している「遠州掛川風力発電所」7基と、近接の風力発電所で2009年から稼働する「浜野風力発電所」1基で調査が実施されました。その結果、アブラコウモリの死骸1体と、ヒナコウモリの死骸2体が発見されています。ヒナコウモリ2体については羽や頭蓋骨に骨折の跡があるため、風力発電機との衝突の可能性があると結論づけられました[17]。
基本的にはブレードが大きく、タワーが高いほどコウモリの死亡率は高いと言われています[11]。ただ、コウモリは種および周囲の環境に応じて飛行高度が異なります。コウモリはエコーローケーションという、口から超音波を出し、跳ね返ってくる音で飛行している位置を捉えたり、獲物を捉えたりします。一般的には30kHzでエコーロケーションしているコウモリは30メートル以上探索できず、100kHz では10メートル程度探索可能と言われています[18]。そのため、低い声のコウモリは、森林の上空といった障害物が少なく開けた場所で餌をとり、高い声のコウモリは森の中などの障害物の多いところでも餌を取ることが多くなります[18]。このようにコウモリは種によって多様な空間を利用するため[19]、飛行高度の予測には、生息している種と、周辺環境の影響を加味する必要があります。従って風力発電機が小型であっても、風車立地地域周辺にそのブレード回転範囲である地上5m〜40mを飛行する種が生息していれば、その活動量に影響を与える可能性があります[10]。脇らの北海道東部の事例研究によると、大型風車ではバットストライクの死亡リスクが低いと考えられていたホオヒゲコウモリ属ですが、小型風力発電施設周辺で活発に活動していることが確認されました[10]
このような研究成果に基づき、各国でモニタリングの実施や、順応的管理の考えに基づいた対策がなされています。オランダでは2016年からモニタリングをセントラル化し、長期間の研究プログラムWozep(Wind on Sea Ecological Program))が実施されています[20]。プログラムの中では、洋上風力発電の建設が及ぼす影響を念頭に、コウモリが海に飛び出す特定の条件と影響、あるいは発電所周囲でのコウモリの振る舞いを調査したり、採餌の行動を音響観測によって把握したりする取り組みがなされています[20]。Wozepの成果をもとに、発電所ごとにコウモリの衝突を防ぐための措置を取り入れる動きも現れてきました。たとえばHoollandse Kust風力発電所では、風車が発電を開始するカットイン風速を、コウモリの移動のピークである期間(8月15日〜9月30日)は、日没後1時間後から日の出2時間前までの期間、5.0m/sとすることで、低速回転時の衝突を防ぐという措置をとっています[20] [21]。また洋上風力発電のサイト入札の公募要領には、風車にカメラやコウモリ探知機などの機器を取り付けることが義務付けられました[20]。
アメリカでは、2015年に米国風力エネルギー協会(AWEA)が風車衝突によるコウモリの死亡を低減するための措置を発表しました。具体的には、協会に加盟している企業17社が、コウモリの渡りの時期、かつ夜間低風速時には、自主的に風車を停止するという措置です[20]。この措置により、アメリカ全体で、風車衝突によるコウモリへの影響を30%程低減できると期待されています[20]。
またアメリカでは2021年から2023年にかけて、エネルギー省の支援のもと、コウモリの風車衝突と音響暴露による死亡率を減少させるための最適な運転抑制のための実証実験が行われました[22]。コウモリの活動が活発な夜間や季節に、風車の一律抑制をすると、運転継続していた場合に発電できていた発電量を失うことになり、事業者の経済的な損失につながる可能性があります。そのため、できるだけ無駄な抑制をなくし、コウモリの行動に適した最適な運転を行うことで、コウモリの死亡率を低減させながら事業者の損失も最低限にすることが重要です。実証実験では夜間で風速が 6.9 m/s (2020年) 未満または 5 m/s (2021 年) 未満の場合、タービンの運転を30分間停止するという実験が行われました(図1)[22]。実験の結果、実験サイトのコウモリが想定よりも大きい風速で活動していた可能性があり、影響の最小化対策を講じない場合と比較して、統計的に有意であるコウモリの死亡個体数の減少はみられませんでした。一方でエネルギ損失は、全面出力抑制と比較すると、発電電力の低減を41〜56%程度回避できる可能性が示されました[22]。音響センサーを活用した、コウモリの衝突回避と事業性維持の両立は発展途上ですが、技術的な解決策が取りうる領域であり、風力発電と生態系保全の両立を目指して、世界で研究・技術開発が進められています。
このようにコウモリが生息する場所に風力発電が立地すると、衝突や生体への影響を及ぼす可能性があります。風力発電所の建設に際しては、コウモリへの影響が生じることを前提として、サイトごとに事前に生息地・採餌場所・特定の気候条件下のコウモリの振る舞い・季節ごとの行動範囲を適切に調査する必要があります。また建設後はコウモリの行動に関するモニタリングを実施することで、風力発電の建設による影響を適切に評価することが大切です。こうした知見は、日本でも国が主導し、将来的な風力発電所の立地場所の選定や、洋上風力発電のサイト入札条件、各事業者独自の措置に反映されていくことが必要だと言えます。
図1 音響センサーを用いたコウモリの衝突回避のための風力発電機の出力抑制例
出典:[22]をもとに執筆者作成
参考文献
[1] Arnett, E. B., Brown, W. K., Erickson, W. P., Fiedler, J. K., Hamilton, B. L., Henry, T. H., Jain, A., Johnson, G. D., Kerns, J., Koford, R. R., Nicholson, C. P., O’Connell, T. J., Piorkowski, M. D., and Tankersley, R. D., 2008, Patterns of Bat Fatalities at Energy Facilities in North America, Journal of Wildlife Management, 71(1): 61–78.
[2] 船越公威, 2020, 『コウモリ学―適応と進化』東京大学出版.
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[9] Smallwood, K. S., 2020, USA Wind Energy-Caused Bat Fatalities Increase with Shorter Fatality Search Intervals, Diversity, 12: 98.
[10] 脇翔吾・赤坂卓美・安藤駿汰, 2022, 「小型風力発電施設がコウモリ類の活動量に与える影響:北海道東部の事例」『保全生態学研究』27: 197–208. (2025年9月18日取得, https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/27/2/27_2134/_pdf)
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[18] 大沢啓子・大沢夕志, 2014, 『哺乳類が空を飛んだ理由―コウモリの謎』新光社.
[19] Roemer, C., Disca, T., Coulon, A., and Bas, Y., 2017, Bat flight height monitored from wind masts predicts mortality risk at wind farms, Biological Conservation, 215: 116–122.
[20] 環境省, 2023, 「洋上風力発電に係る新たな環境アセスメント制度の在り方について」洋上風力発電の環境影響評価精度の最適な在り方に関する検討会(2025年12月15日取得, https://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1055_03/report.pdf)
[21] Rijkswaterstaat, Ministry of Infrastructure and Water Management, 2025, Bats, Wind at sea ecological program (Wozep)(2025年12月15日取得, https://noordzeeloket.nl/functies-gebruik/energietransitie-zee/windenergie-zee/ecologie/wind-zee-ecologisch-programma-wozep/vleermuizen/)
[22] U.S. Department of Energy, Office of Energy Efficiency & Renewable Energy, Wind Energy Technologies Office (WETO), 2023, Final Technical Report Bat Smart Curtailment: Efficacy and Operational Testing(2026年5月15日取得, https://tethys.pnnl.gov/publications/bat-smart-curtailment-efficacy-operational-testing)


