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名古屋大学大学院環境学研究科特任准教授 本巣芽美

A. 昨今では再生可能エネルギー施設の近くで土砂災害が発生する例が報告されていることから、再エネ施設がその要因の一つではないかという懸念が上がっています。土砂災害の要因は大雨、地形、地質といった自然条件に加え、開発に伴う森林伐採や地盤改良、排水の変更等の人為的行為もあります。再エネにおいては、地表や地盤への影響、リスクの高い場所への建設、不適切な施工がある場合、土砂災害を誘発することが考えられます。

解説

土砂災害の種類は土石流1山の斜面や川底の石と土砂が長雨や集中豪雨などの影響で一気に下流へと押し流される、がけ崩れ2急な斜面が雨水の浸透や地震などの影響によって、突然崩れ落ちる、地すべり3比較的緩やかな斜面が、地下水などの影響で緩やかにずり落ちるがあります[1]。日本は世界でも有数の土砂災害の多い国であり、令和6年には1433件の土砂災害が発生しました[2]。土砂災害が発生する要因の一つは、台風や集中豪雨などの大雨、山や谷などの地形、もろく崩れやすい地質などの自然条件があります[3][4]。そのため、昨今増加傾向にある集中豪雨や局地的大雨の他、管理が放棄された森林では土壌の保水力が低下し林地崩壊や地すべりが起こる可能性があるため[5][6]、森林の管理にも注意が必要です[7]。また、土砂災害の発生要因として、建設工事に伴う森林伐採や地盤改良、排水の変更等の人為的行為もあります。山林での開発における植生除去や地形改変は斜面の安定性に影響を与えるため、土砂災害のリスクを高める一要因になります[8][9]。傾斜地における開発では、緩やかな地形が切り取られ平地を造成し急斜面が形成されるため(図1)、豪雨時に斜面崩壊のリスクが高まることが知られています [10]

図1 造成による急斜面の形成[11]

昨今では再生可能エネルギー施設の近くで土砂災害が発生するケースがたびたび報告されています。経済産業省の資料によると、平成30年7月豪雨では、123件の太陽光発電設備の被害が確認されています[12]。風力発電所に関しては、アイルランドのデリーブライエン風力発電所の建設中に大規模な地すべりが発生しました。こうしたことから、再エネ施設は土砂災害を誘発するのではないかという懸念があります。

太陽光発電の特殊性として、パネルで地面を覆うこと、傾斜地にも設置することなどがあげられます。野立ての太陽光発電の場合、不浸透性のパネルで地表の大部分を覆ったり、パネルの下の地表が長期に渡り裸地または草地のままにとなったりすることがあります。その結果、雨水が地面に染み込まず流れてしまう排水の問題が生じることがあります[13]。また、パネルや構造物の荷重も加わるため、斜面崩壊リスクを高める可能性があるという指摘もあります[14]。さらに、傾斜地は地価が安く、許認可手続きの要件が緩いケースが多いため、これまで開発されてこなかった傾斜地に再エネ開発が誘導されるケースもあり、その中には、土砂災害のリスクが高い場所にパネルが設置されるケースも存在するという報告もあります[15]

風力発電においては、横風を受けること、基礎の構造物が重いことが特徴です。斜面に建設される杭を基礎とする構造物を対象とした研究では、設置場所、杭の深さ、荷重(横風)、降雨などの条件によって、斜面が安定化する場合もあれば、逆に不安定化する場合もあることが報告されています[16]。杭が滑り面より深く安定した地盤層まで到達し、降雨が弱い(単位時間あたりの雨の量が少ない)あるいは降雨時間が短く、横風の荷重が小さい場合は斜面が安定化します。しかし、強い降雨で地盤が弱まり、杭が十分に深くなく、横風の荷重が加わる場合は、斜面が不安定化し崩れる可能性があります[16]。前述のデリーブライエン風力発電所では、脆弱な地盤という自然条件がそもそもあり、そこに環境影響評価が不十分であったこと、泥炭地特有のリスクに対する認識が不足していたこと、不適切な建設工事であったことが地すべりの引き金になったと考えられています[17]。一方、杭が深く打たれている場合には斜面が安定化します。日本の大型風力発電設備は耐震基準をクリアしているため、この条件を満たしている可能性が高いと考えられます。

以上を踏まえると、再エネにおいては、開発工事全般と同じく、地表や地盤への影響、リスクの高い場所への建設、不適切な施工がある場合には、土砂災害を誘発する可能性があります。令和5年に林地開発許可制度が改正され、開発面積が0.5ヘクタール以上の太陽光発電事業も対象となりました。この制度では災害対策が許可要件の一つになっており、開発行為による土砂の流出または崩壊その他の災害を発生させるおそれがないことが認められれば、林地における開発は許可されます[18]。調整池の設置は土砂災害リスクを低下させることができるため、最大雨量に対し余裕を持った調整池の確保や、調整池の適切な管理は土砂災害対策として重要です。

参考文献

[1] 土砂災害のしくみ(2026年4月22日取得:https://tenki.jp/bousai/knowledge/785d2f5.html

[2] 国土交通省砂防部, 2024,『令和6年の土砂災害』(2026年4月22日取得:https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/content/001877375.pdf

[3] 土砂災害防止広報センター, 「土砂災害とは」(2026年4月22日取得:https://www.sabopc.or.jp/library/landslides_in_japan/

[4] 国土交通省砂防部, 2007, 「土砂災害と対策の概要」(第1回土砂災害対策懇談会参考資料1)(2026年4月22日取得:https://www.mlit.go.jp/common/001024560.pdf

[5] 山国川圏域流域治水協議会, 2023, 「山国川圏域流域治水」(2026年4月22日取得:https://www.qsr.mlit.go.jp/yamakuni/site_files/file/pdf/ryuiki_pro/ryuiki_shinrinhen.pdf

[6] 農林水産省構造改善局, 1998, 『中山間地農業と土砂災害』(2026年4月22日取得:https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/tyotei/t_zisuberi/pdf/nougyou_dosya.pdf

[7] 国土交通省, 「集中豪雨、局地的な大雨、台風による大雨について」(2026年4月22日取得:https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou/09/pdf/s1-1.pdf

[8] 林野庁, 「土砂災害防止機能/土壌保全機能」(2026年4月22日取得:https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tamenteki/con_2_3.html?utm_source=chatgpt.com

[9] 地方自治研究機構, 2023, 『建設発生土規制をめぐる自治体の対応と今後の課題に関する調査研究』(2026年4月22日取得: https://www.rilg.or.jp/htdocs/uploads/protect/R4_chousa/R4_11.pdf?utm_source=chatgpt.com

[10] Kim, J.H., S, K.I., and Y, C.Y., 2025, Analysis of Slope Hazards of Solar Power Plants in Mountain Area, Korean Geosynthetics Society, 24(1): 1-14.

[11] Suumo, 2026(2026年4月22日取得:https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/chumon/c_knowhow/morido_kirido/

[12] 経済産業省産業保安グループ電力安全課, 2018, 「今夏の太陽電池発電設備の事故の特徴について」(第14回新エネルギー発電設備事故対応・構造強度WG資料1)(2026年4月22日取得:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/014_01_00.pdf

[13] 林野庁, 2022, 「太陽光発電に係る林地開発をめぐる現状と課題」(2026年4月22日取得:https://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/attach/pdf/con_4_6_1-30.pdf

[14] Cheon, E., Yu, J.Y, Lim, H.H., Lee, S.R, Kwon, T.H, and Song, K.I., 2025, Physics-based landslide susceptibility machine learning model for mountainous solar power plants, Nature Hazard, 121: 19967-19992.

[15] 平野徹・上坂善孝, 2022, 「太陽光発電所の土砂災害リスク」『損保ジャパンRMレポート』(2026年4月22日取得: https://image.sompo-rc.co.jp/reports/r232.pdf

[16] Mazloom, S., Shafieezadeh, A., Hur, J., Jung, J.W., Ha, J.G., and Hahm, D., 2025, Rain-induced slope instabilities in unsaturated soils with transmission tower pile foundations: a parametric study with two-phase flow analysis, Geomechanics and Geoengineering, 21(1): 139-158.

[17] Lindsay, R.A, and Bragg, O., 2005, Wind Farms and Blanket Peat – a report on the Derrybrien bog slide.(2026年4月22日取得:https://irishriverproject.com/wp-content/uploads/2023/06/Wind_Farms_and_Blanket_Peat_-_a_report_on_the_Derr.pdf

[18] 林野庁, 2026, 「太陽光発電に係る林地開発をめぐる現状と課題」(2026年4月22日取得: https://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/attach/pdf/con_4_6_1-45.pdf