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名古屋大学大学院環境学研究科特任准教授 本巣芽美

A. 風力発電所は巨大であることから、観光への悪影響が懸念されています。先行研究では観光へのマイナスとプラスの両方の影響があることが明らかにされており、また、その影響の違いは、場所によることも明らかにされています。観光と風力発電所はトレードオフの関係に見立てられますが、実際には観光の要素は景観だけではないため、風力発電事業を活用し既存の観光を強化することや、新たな集客メニューを考案することなどで、新たに観光客を呼び込むことも可能だと考えられています。

解説

風力発電所は大型化しており、景観への影響が懸念されています。そのため、環境影響評価により景観・視覚影響評価が行われるケースや、地域の土地利用計画で設置可能なエリアがゾーニングされるケースなどがあり、景観への悪影響が予測される場合はあらかじめ規制される場合が多くあります。景観を観光資源とする場合には、特に風力発電所の建設による観光需要の減少が懸念されており、風力発電と観光に関する調査が行われています。

洋上風力発電所が海辺の観光に及ぼす影響に関する査読論文をレビューした研究によれば、対象論文の68%が風力発電所は景観や観光に関してネガティブな影響があると評価しています[1]。また、スペインの地中海沿岸に位置するカタルーニャ地方において、ビーチ利用者を対象に実施された調査では[2]、洋上風力発電所の存在によってビーチ利用者の満足度が下がることや、洋上風力発電所を視認できるビーチは観光やレクリエーションの場として回避される傾向があることが示されました。

こうした否定的な調査結果がある一方で、肯定的な調査結果を示す論文もあります。例えば、ポーランドの調査では、約71%の人が「風力発電所は景観や観光価値を下げない」と回答し、観光客の来訪にも悪影響はないと認識されていると報告されています[3]。また、スコットランドで2012年に行われた風力発電所に対する観光客の意識調査において、英国の回答者の80%、スコットランドの回答者の83%が、風力発電所の存在が旅行先や宿泊先の選択に影響を及ぼさないと回答していることが明らかにされました[4]。同様に、観光が風力発電による影響を受ける可能性が低いことを示す調査結果はいくつか存在します[5][6]。また、米国で観光客を対象とした洋上風力発電に関する調査では[7]、時間の経過に伴い慣れが生じ、洋上風力発電所の受容性が高まることが明らかにされています。また、観光への影響は、景観といった視覚的影響だけでなく、地域のステークホルダーへの配慮不足や非参加型の計画プロセスによって引き起こされることも明らかにされています[8]

しかし、こうした調査は意識調査が大半であり、実際の観光への影響を分析したものではありません。こうした課題に応える研究として、ドイツで行われた観光需要と風力発電所の立地データを組み合わせた研究があります[9]。この研究では、内陸地域においては観光需要の減少が確認された一方、沿岸域の一部の地域では観光需要が増加する例もあることがわかりました。すなわち、観光への影響は場所によって異なることが示唆されています。また、米国の調査では[10]、洋上風力発電所が隣接する島と、その近隣の観光地3地域を比較し、洋上風力発電所の建設前後で観光動向がどのように変化するかが調査されました。その結果、洋上風力発電所が隣接する島では、宿泊予約数、稼働率、収益において、他の3地域よりも増加したことが確認され、特に観光のピークシーズンにおいて有意に増加する点が確認されました。この結果から、洋上風力発電所は観光の阻害要因になるのではなく、促進する要因になり得ることが示唆されました。

昨今では、開発事業者が地域と協力し観光振興に取り組んでいる例や、環境意識の高い層に対し、風力発電所を「グリーン・デスティネーション(環境に配慮した観光地)」として打ち出す例などがあり[11]、風力発電がむしろ集客の要素となっている例も散見されます。例えば、コミュニティ基金を活用してハイキングトレイルの復元事業を行い、その結果年間約1,000人のハイカーを呼び寄せたという報告があります[12]。また、風力発電は地元自治体や土地所有者に収益をもたらすため[11]、それが観光インフラの整備やレクリエーション施設に活用され、結果として観光地の質の向上につながるといったことも指摘されています[13]。また、ホワイトリー風力発電所のビジターセンターでは、風力発電所に関する情報の展示や教育関連の資料の提供に加え、体験型ワークショップやバスツアーなども実施されています[14]。さらに、ウィンドファームの敷地内は整備され、ハイキングや乗馬などのレクリエーション活動が可能です。こうした取り組みにより、2009年のウィンドファーム開設以降、100万人以上の観光客が訪れたと報告されています[14]。国内では、長崎県五島市において浮体式洋上風力発電所の視察ツアーが実施されており[15]、平成24年度からの9年間で7,500人を超える視察者が訪問しました[16]

先行研究では、風力発電所による観光への影響に関してマイナスとプラスの両方の調査結果が存在します。観光と風力発電所はトレードオフの関係に見立てられる傾向がありますが、実際には観光の要素は景観だけではないため、今後は風力発電事業を活用し既存の観光を強化することや、新たな集客メニューを考案することなどで、新たに観光客を呼び込む可能性があることが指摘されています。

参考文献

[1] Machado, J. T. M., & de Andrés, M., 2023, Implications of offshore wind energy developments in coastal and maritime tourism and recreation areas: An analytical overview,Environmental Impact Assessment Review, 99: 106999. https://doi.org/10.1016/j.eiar.2022.106999

[2] Voltaire, L., Loureiro, M. L., Knudsen, C., & Nunes, P. A. L. D., 2017, The impact of offshore wind farms on beach recreation demand: Policy intake from an economic study on the Catalan coast,Marine Policy, 81: 116-123. http://dx.doi.org/10.1016/j.marpol.2017.03.019

[3] Wartecka-Ważyńska, A., 2023, The impact of onshore wind farms on the tourist value of the environment in the opinion of Poland’s inhabitants: Analysis of secondary empirical research results,Economics and Environment, 85(2): 395-419.(2026年6月30日取得:https://www.ekonomiaisrodowisko.pl/journal/article/view/542/540)

[4] ClimateXChange, 2012,The impact of wind farms on Scottish tourism.(2026年6月30日取得:https://www.climatexchange.org.uk/wp-content/uploads/2023/09/the_impact_of_windfsarms_on_scottish_tourism.pdf)

[5] Northumbria University, Wind farms and tourism debate in rural Northumberland.(2026年6月30日取得:https://www.northumbria.ac.uk/research/research-impact-at-northumbria/cultural-impact/wind-farms-and-tourism-debate-in-rural-northumberland/)

[6] Welsh Government, 2019,Potential economic impact of wind farms on Welsh tourism.(2026年6月30日取得:https://www.gov.wales/sites/default/files/publications/2019-06/potential-economic-impact-of-wind-farms-on-welsh-tourism_0.pdf)

[7] Bidwell, D., 2023, Tourists are people too: Nonresidents’ values, beliefs, and acceptance of a nearshore wind farm,Energy Policy, 173: 113365. https://doi.org/10.1016/j.enpol.2022.113365

[8] Martino, S., Tett, P., & Kenter, J., 2019, The interplay between economics, legislative power and social influence examined through a social-ecological framework for marine ecosystems services,Science of the Total Environment, 651: 1388–1404. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2018.09.181

[9] Broekel, T., & Alfken, C., 2015, Gone with the wind? The impact of wind turbines on tourism demand,Energy Policy, 86: 506-519. http://dx.doi.org/10.1016/j.enpol.2015.08.005

[10] Carr-Harris, A., & Lang, C., 2019, Sustainability and tourism: the effect of the United States’ first offshore wind farm on the vacation rental market,Resource and Energy Economics, 57: 51-67. https://doi.org/10.1016/j.reseneeco.2019.04.003

[11] de Sousa, A. J. G., & Kastenholz, E., 2015, Wind farms and the rural tourism experience – problem or possible productive integration? The views of visitors and residents of a Portuguese village,Journal of Sustainable Tourism, 23(8–9): 1236–1256. https://doi.org/10.1080/09669582.2015.1008499

[12] RenewableUK, 2025,Do wind farms impact tourism?(2026年6月30日取得:https://www.renewableuk.com/news-and-resources/blog/do-wind-farms-impact-tourism/)

[13] Silva, L., & Delicado, A., 2017, Wind farms and rural tourism: A Portuguese case study of residents’ and visitors’ perceptions and attitudes,Moravian Geographical Reports, 25(4): 248-256. https://doi.org/10.1515/mgr-2017-0021

[14] Whitelee Windfarm, n.d.,Visitor Centre.(2026年6月30日取得:https://www.whiteleewindfarm.co.uk/visitor-centre)

[15] 五島市観光協会,「五島 再生可能エネルギーツアー」『五島観光』.(2026年6月30日取得:https://www.gotokanko.jp/tour/haenkaze-inspection-tour/)

[16] 久慈市, 2025, 「長崎県五島市の浮体式洋上風力発電による地域の脱炭素化ビジネスの状況について視察しました(令和3年10月12日)」『久慈市公式サイト』.(2026年6月30日取得:https://www.city.kuji.lg.jp/soshiki/somu/1/2/1/3/2181.html)