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名古屋大学大学院環境学研究科特任准教授 本巣芽美

A. 再生可能エネルギーは化石燃料の代替になることから、温室効果ガスの排出削減になると考えられています。しかし昨今では、再生可能エネルギーの普及によって、むしろ化石燃料の消費を増加させるという「グリーンパラドックス」が主張されることもあります。グリーンパラドックスを評価した論文は限られていますが、電気料金、化石燃料価格、再エネ賦課金の推移などから、再エネの導入が化石燃料の消費を増加させるというグリーンパラドックスの事実は確認できていません。

解説

再生可能エネルギーは化石燃料の代替になることから、温室効果ガスの排出削減になると考えられています。しかし昨今では、この考えを否定する「グリーンパラドックス」という概念があります。これは、再生可能エネルギーの普及によって、むしろ化石燃料の消費を増加させるという考え方です。グリーンパラドックスが起きる仕組みについて、主に2つの考えがあります。

一つ目は、再生可能エネルギーの増加によってエネルギー価格が上昇するため、よりエネルギー価格が安い国に企業は移転し、その結果、移転先の国においてエネルギー供給が増加するため、化石燃料の消費が増加するという考えです。例えば電気料金の場合、日本における化石燃料と再エネの発電コストを比較すると、火力発電の大部分を占める石炭とLNGは再エネより安価です(表1[1]。そのため、発電コストが高めの再エネが増えると、再エネ賦課金などにより電気料金が値上がるという主張があります[2]。しかし、日本の電気料金の変動は原油価格の変動とほぼ一致しています(図1[3]。また、再エネの導入拡大により再エネ賦課金は上昇しますが、再エネ賦課金は2022年まで上昇する一方で、電気料金は2016年と2020年に下がっており、再エネ賦課金と電気料金の変動は異なっています(図2)。すなわち、電気料金の高騰は再エネよりもむしろ化石燃料の影響が大きいと言えます。また、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、再エネはコスト競争力があり、2024年に商業運転を開始した再エネ発電所の91%が、化石燃料よりも安かったと報告されています[4]。以上より、再エネの増加よりも、化石燃料価格の高騰によって電気料金が高騰すると解釈でき、企業が電気料金の安い国へ移転したとしても、それは再エネが原因であるとは断言できません。

表1 2020年の電源別発電コスト試算結果

電源 石炭火力 LNG火力 石油

火力

原子力 陸上風力 洋上風力 太陽光

(事業用)

太陽光

(住宅)

発電コスト(円/kWh) 12.5 10.7 26.7 11.5 19.8 30.0 12.9 17.7
電源 小水力 中水力 地熱 バイオマス(混焼、5%) バイオマス(専焼) ガスコジェネ 石油コジェネ
発電コスト(円/kWh) 25.3 10.9 16.7 13.2 29.8 9.3〜10.6 19.7〜24.4
図1 電気料金平均単価の推移[3]
図2 再エネ賦課金の推移(2025721UPDATER講義資料を参考に、 新電力ネット[5]より作成)

二つ目は、再エネの増加により再エネのコスト低下が見込まれる場合や、気候変動政策により化石燃料の消費が将来的に制限されると予想される場合、化石燃料の採掘が前倒しされたり、化石燃料の採掘が促進されたりすることで、化石燃料の消費が増加するという主張です。理論的には、再エネが価格競争力を持つ前に、あるいは、化石燃料の使用が将来制限される前に、化石燃料を消費しようという動機が働き、その結果、化石燃料の供給量が増え、化石燃料の価格が低下し、消費量が増加するという動きが予測されます。こうした理論的予測について、米国で化石燃料の使用削減に関するワックスマン・マーキー法案(正式名称はアメリカ・クリーン・エネルギー安全保障法案。温室効果ガスの排出削減等に関する法案。成立には至らなかった。)が議論されていた2009年から2010年の原油価格データを用いて、実際に化石燃料の価格低下について検証した研究があります[6]。この研究では、将来、化石燃料の規制強化が予想されると、石油価格が低下する傾向があることが確認されました。また、この法案がもし可決されていれば、現在の石油消費量は2〜4%増加していたと指摘されています。しかし、再生可能エネルギー政策インデックス(再生可能エネルギーの導入拡大に関するニュースや支援策等)が上昇すると、石油価格も上昇する傾向が見られたことから、再エネの増加に対する期待は化石燃料の価格低下とは無関係であると指摘されています。この研究では、気候変動対策によって、将来、化石燃料の使用が制限されると予想されると、化石燃料価格の低下が起きること、また、化石燃料の消費の増大が見込まれることが指摘されており、再エネを理由としたものではありません。したがって、再エネが化石燃料の消費を増加させるという主張とは矛盾します。

グリーンパラドックスを評価した論文は限られており、現段階では再エネが化石燃料の消費を増加させるというグリーンパラドックスの事実を確認できません。

参考文献

[1] 資源エネルギー庁, 2021年12月28日掲載, 「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」(2025年12月15日取得:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denki_cost.html

[2] キャノングローバル戦略研究所, 2024年6月13日掲載, 「『再エネ5重投資』で電気代は上がるばかり 政府は再エネにかかる本当のコストを示すべきだ」(2025年12月15日取得:https://cigs.canon/article/20240620_8182.html

[3] 資源エネルギー庁, 2025年3月28日掲載, 「3. 経済性」(2025年12月15日取得:https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2024/03.html

[4] IREANA, 2024, Renewable Power Generation Costs in  2024(2025年12月15日取得:https://www.irena.org/Publications/2025/Jun/Renewable-Power-Generation-Costs-in-2024

[5] 新電力ネット, 2025年3月25日掲載, 「再生可能エネルギー発電促進賦課金について」(2025年12月15日取得:https://pps-net.org/statistics/renewable

[6] Maya A. Norman Wolfram Schlenker, 2024, EMPIRICAL TESTS OF THE GREEN PARADOX FOR CLIMATE LEGISLATION, Working Paper 32405, NBER WORKING PAPER SERIES(2025年12月15日取得:http://www.nber.org/papers/w32405