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A. 国内外で台風の影響による風力発電機の倒壊事例があります。年間の事故件数は導入量の0.00~0.12%ほどです。

原因解明の結果、事故原因として多いのは、強風により風車の制御システムへ負荷がかかることで制御が困難な状況に陥ることと、停電により風車の制御が困難な状況に陥ることであることが明らかになっています。

対応策としてはバックアップ電源の確保や、風車の制御システムの故障時に重大な事故が起きるまえに確実に実行できる対策を準備しておくことが考えられます。

また、耐風速性が高い風車に与えられる認証も整備されてきました。2019年には国際電気標準会議(International Electotechnical Commission)が定める規格において、Class-Tの規模の台風(10分平均の極値風速57.5m/s、3秒平均の突風79.8m/s)にも耐えられる性能を示す認証が追加されています。

解説

表1に示すように、日本国内では沖縄県から青森県まで、風力発電機が台風や低気圧の影響によって損傷し、倒壊する事例が報告されています。年間で事故が発生する件数は、風力発電機の累積導入量(基)のうち0.00〜0.12%にあたるそうです。1 この年間の事故件数の割合は、データが得られた2019年〜2023年の事故件数と累積導入量(基)の値を用いて計算している。ちなみに2023年12月時点の日本の風力発電の累積導入量は5,213.4MWで風車は2,626基である。電気工作物の事故は独立行政法人製品評価技術基盤機構がデータベースを公開している。

事例によって損傷や倒壊が生じるメカニズムが異なり、事業者によってその都度事故の原因追及が行われています。

表1の事故原因の分析からは、台風時の停電により風車の制御が困難な状況に陥ったことや、制御に関係する機構に物理的な負荷がかかることで同様の状況に陥ったことが、事故の原因として多いことが分かります。

表1. 国内の台風通過や低気圧接近状況下の風車の欠損や倒壊の事例

発生年月 所在地 主な原因 風車機種および倒壊に至った経緯
2003年9月 沖縄県宮古島 台風時の設計風速以上の風速による荷重過大 台風通過時、系統が停電。制御喪失状態で強風を受け、基礎部への荷重が増大し3基倒壊(500kW/400kW/100kW)、4基ブレード折損。
2007年1月 青森県下北郡 設計風速以下の風速での過回転 低気圧発生時に、取り付け不備によりパーツが脱落、風車が過回転を起こしたため基礎に過大な荷重がかかり、基礎を破壊して倒壊(1.3MW)
2016年9月 鹿児島県肝属郡 設計風速以上の風速でのヨーモータやブレードへの荷重負荷 台風により、2基座屈、2基ブレード折損。ヨーモータが過負荷となり、ブレーカーが遮断、ヨー制御ができなくなり、ブレードの角度も変化、共振や荷重増大によりタワー座屈(いずれも2.0MW)
2018年8月 兵庫県淡路島 台風通過(設計風速以下)後、タワー基礎部への荷重過大 事故の1年前より故障のため運転停止、撤去予定であった。長期間の電源供給停止により油圧抜け、フェザリングおよびヨー制御喪失、過回転状態になり、荷重増大、基礎鉄筋破断、倒壊。(600kW)
2018年9月 和歌山県日高町 台風通過時の過大風速(台風)、乱流・渦流影響、停電影響、主軸ベアリングへの過大負荷の可能性 台風通過時に停電、制御停止状態において、風向・風速が変化。1基タワーが座屈、倒壊(1.99MW)
2020年10月 長崎県鷹島 製造不良とメンテナンス不足 小型風車。事故1ヶ月前に台風が二つ通過。基礎部フランジにおける溶接継ぎ目の食い違いにより応力集中し、亀裂が発生、疲労破断。
2020年9月 長崎県平戸市 台風による突風などに対し、ヨー制御が正常に作動せず 台風通過後、3機のブレード破損。ヨーイングの異常により風向変化に対し、ナセルの追従が不可能となりブレードへの荷重過大に。
2020年9月 九州 落雷によるブレードの3枚の破損 風車ブレードが雷撃を受けて損傷し、台風による強風で損壊したため、破損事故になった。
2021年9月 九州 風車3基のブレードの損傷・飛散 台風の通過後に点検を行ったところ、風車のブレードに損傷が確認されたため、破損事故になるとともに、破損したブレードの破片が近隣の森林等に飛散
2021年9月 九州 風車1基のブレードの損傷・破損 同上
2022年9月 四国 2018年製の回転子巻線が絶縁不良により地絡 台風接近により停止モードとなり、台風通過後停止モードが解除され、通常運転モードに移行したところ、発電機回転子側の地絡エラーを発報し、運転停止となり、発電機の絶縁回復を目的とした暖機運転を試みたが、運転ができるまでには回復せず、事故と判断し、破損事故になった(系統連系電圧:66kV)。
出典: [6][7] をベースに、[4][8]〜[14] も参照しながら筆者作成。

台風による風力タービンへの被害は、台風の3つの特徴である ① 極端な風速② 急激な風向きの変化③ 乱気流の劇的な強さに主に起因していると言われています [1]

風車の設計は風速を想定して行われますが、実際の風速が設計限界を超えると、何らかの事故が発生する可能性があります。風車は25m/s以上の風速の場合、過回転を防ぐために停止するよう制御されますが、停止していても極端な風向きの変化がブレードに負荷を与えます。また、強い乱気流が風車のローター機構に不規則な振動を生じさせる原因となり、これも故障の原因になる可能性があります [2]

したがって、実際の風速が設計風速より小さい場合でも、風向きの変化や乱気流の発生などの条件が重なると、故障に至ることがあるのです [2]。また、発電効率の向上のために、近年の風力発電機はブレードのサイズが大きくなっていますが、ブレードが大きくなるほど、台風時のブレードのたわみも大きくなります [3]

これらに対応するためには、以下の対策が考えられます。(1) 設計時に想定する風速の最大値を大きくすること 2 風速の表し方には「平均風速」と「瞬間風速」がある。気象情報等で「風速」という場合は「10分間平均風速」のことであり、「瞬間風速」という場合は「3秒間平均風速」のこと。また、それぞれの最大値を「最大風速」および「最大瞬間風速」という。現時点で公募されている日本の洋上風力発電事業者が採用する風力発電機はいずれも Class-T の台風に耐える機種を採用している [16]。Class-T を取得している GE の Haliade-X はイギリスの洋上風力発電で2023年10月に初めて導入された(277基、3.6GW)。2024年5月初旬にブレード一枚が破損する事象が生じているが、その原因は該当のブレード1枚のみに起因するものだという [17]、(2) 台風下での風の状態とブレードへの風荷重を適切にシミュレーションすること、(3) タワーの適切な構造設計、(4) 風車自体の制御システムの改善と停電時の対策、(5) 洋上風力発電においては効果的なリアルタイムの海況検知と正確な気象予測システムの整備 3 神戸大学発ベンチャーのRera Tech(レラテック)株式会社では洋上での風況観測、海上の風のシミュレーション等に関するサービスを民間事業者に提供している [3]、(6) 浮体式風力発電機における海象条件によってもたらされる係留部の動的応答の緩和、(7) 風力発電機の定期検査の実施 4 (7)の風力発電機の検査に関しては、遠隔検査技術により直接人間がブレードに直接アクセスせずとも状態を点検したり、異常が検出できるような検査方法が実証されている [18]です。

事故原因として多いと見られる (4) 風車自体の制御システムの改善と停電時の対策について、考えられる対応策は下記の通りです。

制御システムへの物理的な負荷の低減については、表1の2020年の長崎県平戸市の事故原因の究明と対応に関する経済産業省のワーキンググループで議論が行われました [4]。具体的には、ギアボックス故障時にローターはブレーキをかけて回転をロックすべきか、ブレーキをかけずに空回りさせる遊転をさせるべきかという議論がなされました。

ギアボックスとは、ブレードの低い回転数を発電機に接続する際に高い回転数に変速させる機構であり、ローターとはブレードの回転軸を指します。

結果的には、ギアボックス故障時にはその風車のメーカー技術員が状態を確認して総合的に判断するという結論となりました [4]。しかし、この対応方針については、台風接近時に現地に向かうことができるのか、事故を予防する対応策ではないという指摘もありました [4]

また、停電時のバックアップ電源の確保も必要です。これは、風力発電の送電線が埋設されているため、台風時の倒木などによる影響が少ないことや、過去にそのエリアで台風による停電が発生したかどうかにかかわらず、対応を進めるべきでしょう。

また、耐風速性が高い風車に与えられる認証も整備されてきています。2019年には、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)が定める規格において、Class-T 規模の台風(10分平均の極値風速57.5m/s、3秒平均の突風79.8m/s)にも耐えられる性能を示す認証が追加されました [5]

表2には、各地点の観測史上一位の最大風速(10分間の平均風速の最大値)を示しています。多くの地点が山地や島嶼部ですが、風力発電が立地している北海道の寿都では、1952年に記録された49.8m/sが歴代最大風速となっています。

表2. 各地点の観測史上一位の最大風速(10分間の平均風速の最大値)

順位 都道府県 地点 観測日
m/s 起日
1 静岡県 富士山 72.5 1942年4月5日
2 高知県 室戸岬 69.8 1965年9月10日
3 沖縄県 宮古島 60.8 1955年9月5日
4 長崎県 雲仙岳 60.0 1942年8月27日
5 滋賀県 伊吹山 56.7 1961年9月16日
6 徳島県 剣山 55.0 2001年1月7日
7 沖縄県 与那国島 54.6 2015年9月28日
8 沖縄県 石垣島 53.0 1977年7月31日
9 鹿児島県 屋久島 50.2 1964年9月24日
10 北海道 後志地方 寿都 49.8 1952年4月15日
出典:国土交通省気象庁 [15] をもとに筆者作成

参考文献

[1] 経済産業省, 2024, 総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議(第24回)(2024年7月15日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/024.html)

[2] 日本風力発電協会, 2023, 「2023年12月末時点日本の風力発電の累積導入量:5,213.4MW、2,626基」(2024年9月28日取得, https://jwpa.jp/information/9782/)

[3] Li, Jiawen, Zhenni Li, Yichen Jiang and Yougang Tang, 2022, “Typhoon Resistance Analysis of Offshore Wind Turbines: A Review, Atmospherem, 13(451): 1-19.

[4] 経済産業省, 2022a, 第29回産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会、新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2024年7月16日取得,https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/029.html)

[5] GE VERNOVA, 2023, ”GE Vernova’s first Haliade-X offshore wind turbine installed at sea begins producing power” (2024年8月1日取得, https://www.gevernova.com/news/press-releases/ge-vernovas-first-haliade-x-offshore-wind-turbine-installed-sea-begins-producing)

[6] Rera Tech Inc., 2024, 「サービス内容」(2024年9月2日取得, https://rera-tech.co.jp/ourservices)

[7] SOMPOリスクマネジメント, 2023,「国内の風力発電設備倒壊事故と制度の変遷〜直近の倒壊事例を踏まえて〜」(2024年7月15日取得,https://www.sompo-rc.co.jp/columns/view/72)

[8] 独立行政法人製品評価技術基盤機構, 2024, 詳細公表システム(2024年9月28日取得,https://www.nite.go.jp/gcet/tso/shohopub/search)

[9] GE VERNOVA, 2024, 「GE、大型洋上発電タービン ハリアデ-Xの次世代機17-18MWモデルを日本市場へ導入」(2024年7月15日取得, https://www.gevernova.com/news/press-releases/ge-17-18-megawatt-haliade-jp)

[10] 経済産業省, 2007, 岩屋ウィンドファーム発電所11A号風車 倒壊事故について(中間報告概要)(2024年7月16日取得, https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2007/files/190206.pdf)

[11] 経済産業省, 2018, 第13回産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ「兵庫県淡路市における風力発電設備の倒壊事故について」(2024年8月1日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/014.html)

[12] 経済産業省, 2022b, 第30回産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会、新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2024年9月24日取得,  https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/030_gijiroku.pdf)

[13] 経済産業省, 2022c, 第31回産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会、新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2024年8月1日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/031.html)

[14] Li, Zheng-quan, Sheng-jun Chen, Hao Ma and Tao Feng, 2013, ”Design defect of wind turbine operation in typhoon activity zone,” Engineering Failure Analysis, 27:165-172.

[15] 国土交通省気象庁, 2024,「過去の気象データ検索>歴代全国ランキング」(2024年9月2日取得, https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/rankall.php)

[16] 経済産業省, 2023,「風車を設置する皆様へ。六ケ所村風力発電所で発生した風車の倒壊事故を踏まえ、風車の点検について必要性の検討をお願いします」(2024年7月16日取得, https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230407002/20230407002.html)

[17] DOGGER BANK WIND FARM, 2024,“Project news: Incident at Dogger Bank Wind Farm”(2024年8月1日取得, https://doggerbank.com/category/project-news/)

[18] 沖縄電力, 2004, 台風14号による風力発電設備の倒壊等事故調査報告について(概要)(2024年8月1日取得, https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2444841/www.nisa.meti.go.jp/oshirase/2004/files/161125-1.pdf