名古屋大学大学院環境学研究科研究員 平春来里
A. 音は一般的に距離減衰をします。低周波音や超低周波音は波長が長いために、可聴音より長距離を伝播する特性があるものの、一般的な音の減衰の原理と同様に距離減衰が認められています。ただ、大気が安定している夜間に、連続的な超低周波音が、数十km伝播する可能性が指摘されています。また、ブレードが後流の乱気流と干渉する場合、深い振幅変調が生じ、人によっては音の煩わしさを感じる可能性があります。
解説
本コラムでは基本的に、風力発電機から発生する音は点音源1音は多方向に広がる性質をもっています。ある一点から発生するような音は球面状に広がっていき、このような音源は点音源と呼ばれています。として捉えます。点音源は音源の大きさに対して、十分に離れた位置から見て発生源が一点の場合のものを指します。例えば、防災無線のスピーカーや救急車のサイレンなどが点音源の例としてあげられます[1]。ある音源から発生した音のエネルギーは、距離が離れるにしたがって小さくなり、音圧レベルも小さくなります。これを距離減衰といいます[1]。点音源では、音源から受音点までの距離が2倍になると、受音点で測定される音圧レベルが6dB小さくなると考えられています(注1) [1]。
音の伝播の分析には多くの場合、シミュレーションが用いられます。風力タービン騒音を予測するためのモデリング技術は、風力発電機の設計段階だけでなく、特定の状況下を想定した騒音の伝播を分析する上でも有用です[2]。風力タービンの騒音のうち、ギアボックスから発生する機械騒音は近年大幅な改善がみられますが、ブレードが空気中を回転することにより生じる空力騒音(Aerodynamic noise)については、その対応が依然問題となっています。空力騒音の発生にはいくつかパターンがあり、大きく「流入乱流騒音(Turbine Inflow noise)」と「翼型固有騒音(Airfoil self-noise mechanisms)」があります。流入乱流騒音は、ブレード表面に流入する大気乱流とブレードが相互作用することによって生じます。翼型固有騒音には複数のタイプがあり、乱流境界層とブレードの鋭い後縁が相互作用することによって生じる「乱流境界層―後縁騒音(Turbulent boundary layer – trailing edge noise)」や、ブレードが風向に対して角度が大きく傾くことによりブレードが失速して大規模な流れの剥離が生じることによって生じる「失速流れ騒音(Stalled flow noise)」があります(注2) [2] [3] [4]。シミュレーションでは、重力や運動エネルギー、流体堆積の圧縮性を考慮する流体システム(流れ場)と、音の発生制御と伝播、大気中で相互作用する諸要素を考慮する音響学(音響場)、を組み合わせて伝播の状態が予測されます[5]。500kW風力タービンから45m地点の騒音の実測データを測定し、シミュレーション結果と比較したBertagnolioらの研究によると、風車近傍においてはモデルと実測値の間には概ね良好な一致が認められています(注3) [2]。
一般的に、音の伝播は気象や大気の影響をうけます[6]。点音源は球面状に音が広がりますが、これは風がなく大気の温度が一様な理想的な条件下の現象です。自然界ではより複雑な現象がみられ、その一つが音の屈折です。点音源から発生した音は、温度成層や風の影響をうけ、高さ方向の音速が変化します[7]。例えば放射冷却のように、地上付近の温度(注4)が低く、上空に暖かい空気が溜まっているような大気の条件のときは、上空のほうが音速は速くなります。すると音は最初、上空へと進み、放物線の経路を辿りながら徐々に地上へと降りていきます。このような伝播の経路は、より遠くへと音が伝わるものとなります。大気の条件が逆の場合、つまり地上の温度が高く、上空の温度が低いような場合は、地上付近の音速のほうが早いため、最初は地面付近を伝わりながら、徐々に上空に向かって伝播していきます。この場合、音はあまり遠くには伝わりません。
また、大気の安定性が高いほど音は伝わりやすく、安定性が低いと伝わりにくくなります。マクロな視点でみると表層の安定度と大気境界層によって、ミクロな視点では風力発電機の前後で風速が変化することによって、音の伝播が変化します。Kellyらの風車騒音(注5)の伝播シミュレーションによると、不安定な大気条件では、線形的な距離減衰の想定よりも、最大2dB低い音圧レベルになるという結果が得られています[8]。他方で、中緯度の気候の、大気が安定しているという稀な条件下では、線形的な距離減衰を想定する中立条件よりも、騒音レベルが高くなる可能性があります。具体的には、風下側3〜4.5km地点では1dB以上高いレベルとなるシミュレーションの結果が得られました。安定した大気の状態では、音の伝播に影響を与える風速や温度の揺らぎが小さいためです。このように音は距離減衰しながら伝播しつつも、大気の影響を受けて実際よりも小さい、あるいは大きい音圧レベルとなることがあります。
ここまで音全般に関する伝播について特徴を整理してきました。続いて、低周波音や超低周波音に特化して音の伝播について検討します。低周波音や超低周波音は波長が長いため、障害物があっても透過しやすく、コンクリートや金属といった硬い材質には吸収されにくいという特性をもちます。このことから長時間エネルギーを維持できるという性質があります。ただ、低周波音も基本的には音源からの距離が2倍になると音圧レベルが6dBの割合で減少すると考えられるデータが得られています[10] [11] [12]。風力発電の低周波音の減衰について検討したHubbardとShepherdによると、風上側では、点音源からの球面拡散同様の減衰率ですが、風下側では円筒拡散に相当する減衰率になると指摘しています[3]。つまり、機械付近では距離が倍になるごとに6dB減衰しますが、それより遠距離になると、距離が倍増するごとに3dBの減衰率になります。このように低周波数の騒音は遠距離になると減衰率が低下する可能性はあるものの、距離減衰をすることは認められています。
低周波音も距離減衰をすることを前提としつつ、その減衰率の程度や、比較的長距離を伝播するという可能性について検討したいと思います。特定の大気の条件では、低周波音や超低周波音が長距離を伝播する可能性があります[14] [15]。Marcilloらは、アメリカ・ニューメキシコ州ラグナプエブロにある、一基あたりの出力が1. 6MW風力発電機60基の風力発電所から発生する低周波音について、実地調査を実施しました[14]。観測点は4箇所で、それぞれ風力発電所から13km、54km、90km、126km離れた場所にセンサーを設置しました。その結果、13km、54km、90kmに設置されたセンサーで、流入乱流騒音と考えられる、連続的な超低周波音(0.879Hzとその倍音に離散的なエネルギーピーク)が検出されました(注6)。この調査から、低周波音の長距離伝送が生じるのは複数の条件が重なった場合であり、①低周波音や超低周波音が背景騒音よりも大きいこと②夜間の特定の大気境界層(ABL)の配置によって対流圏低高度導波管(注7)(low-altitude waveguides)が発生し、低周波音や超低周波音のエネルギーが保持されたまま伝播すること、といった条件が揃う必要があることが分かります[14]。
また、風力発電の空力騒音のうち、「乱流境界層―後縁騒音」は他のタイプの空力騒音より周波数が高いため、大気中での吸収率が高く、その伝播は短距離に限られます[14]。「失速流れ騒音」によって生じる低周波音や超低周波音は、広帯域性2騒音の持つ周波数に幅がある場合、そのノイズは広帯域性があるといわれます。と衝撃性という特徴があります[5]。このタイプの騒音は遠方で「ドスン」という音に聞こえると言われており、人間に不安やストレス関連の影響を引き起こす可能性が示唆されています[5]。
このように音は一般的に距離減衰をします。低周波音や超低周波音は波長が長いために、可聴音より長距離を伝播する特性があるものの、一般的な音の減衰の原理と同様な距離減衰が認められています。ただ、大気が安定している夜間に、ブレードと気流勾配によって生じるタイプの連続的な超低周波音が数十km伝播する可能性があります。また、低周波音や低周波音がブレード後流の乱気流と干渉する場合、深い振幅変調が生じ、人によっては音の煩わしさを感じる可能性があります。
図1 大気が安定する夜間において、大気境界層の深さが音の伝播に影響する場合の概略図
(北海道大学大学院環境科学院地球圏科学専攻大気海洋物理学・気候力学コース [17]および
Kelly et al. [8]をもとに筆者作成)
注釈
- 音の距離減衰は線形ではなく、対数的に表現されます。自由音場における点音源(理想条件)では、音の強さは距離の2乗に反比例して減少し、音圧は距離に反比例します。このため、音圧レベルは距離の増加に対して対数的に低下します。これは音が広がる面積(球面状)とエネルギーの密度が関係するからです。点音源からの距離が2倍になると音が広がる面積が4倍となり、単位面積あたりのエネルギーの密度は1/4になります。音の強さが1/4になると、音圧レベルでは6dBの低下となります[1]。このため、音源の近くでは「少し離れただけで大きく音が下がった」と感じやすく、一方で音源から遠い場所では、同じ距離だけ離れても音圧レベルの変化が小さく感じられます。これは減衰の仕方が変わっているのではなく、距離が対数的に効いているためです。
点音源の距離減衰量は次式で表されます。
ここで D1、D2は音源からの距離、N1、N2はそれぞれの地点における音圧レベルです。
例えば、距離が2倍になる場合
となり、「点音源から10mと20m」「点音源から10kmと20km」のいずれの場合でも、理想的な点音源・自由音場の条件下では、音圧レベル差は約6dBとなります。
- 翼型固有騒音(Airfoil self-noise mechanisms)の発生メカニズムについてそれぞれの発生原理を補足して説明します。(1)「乱流境界層―後縁騒音」は、ブレードの表面を大気が流れるなかで、前縁の太い方から後縁の鋭い方へと向かう過程で乱流が生まれ、それがブレードの後縁と相互作用することで生じる騒音(2)「失速流れ騒音」は、ブレードが流入してくる風に対して垂直方向に傾き、特定の角度になったときに(特定の迎角を超えたときに)、回転が失速し、ブレード表面を流れていた大気が、表面から剥離し、騒音が発生するものです[2] [4]。
- 低周波域(≦100Hz)および高周波域(≧3kHz)ではその一致が崩れるものの、A特性荷重が適用されると、騒音規制の観点から不一致の重要性は低くなります[2]。
- 音速は音の伝播速度で、常温の空気中では340m/sです。音速は音の伝播速度で、常温の空気中では340m/sです。音速は温度のみで変化し、圧力は伝播速度には無関係です[9]。大気の温度とt℃とすると音速c(m/s)は近似的に次のように表されます。
c=331.45+0.6t
したがって温度が高いほうが音速は速くことが分かります。 - 人間の耳は大気中の音波を対数的に変化する形で感知でき、音圧レベル(SPL)を測定するにはデシベル(dB)スケールが用いられることが多く、式(1)
で与えられます[5]。
Prms は二乗平均平方根圧力変動、Prefは基準音圧(μPa)です。
Kellyらのシミュレーションは「20Hzから800Hzまでの1/3オクターブバンドの中心周波数に対して実施された[8]。対応する音圧レベルは対数加算によって合計され、全体的なSPLを算出する」という方法によって行われました。20Hz〜800Hzに含まれる1/3オクターブバンドの中心周波数は、ISO 266:1997に準拠すると17個あります。その中心周波数を列挙すると20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hz、100Hz、125Hz、160Hz、200Hz、250Hz、315Hz、400Hz、500Hz、630Hz、800Hzです。低周波音は概ね1Hz〜100Hzの音のことをさすため[13]、このシミュレーションには低周波音も含まれています。 - 超低周波音の観測の割合は、28日間の調査で得られた観測データのうち、13km地点では4%、54km地点では3.1%、90km地点では0.9%です[14]。このことから、夜間の大気条件下では風力発電所から発生する音が数十kmの距離まで伝播することを明らかにしました[14]。夜間で、0.879Hzの超低周波音を観測した際のパワースペクトル密度[1]の平均エネルギーは、13km地点で57dB、54km地点で53dB、90km地点で48dBです[14]。
- 導波管は、電磁波や音波などのエネルギー波を導く構造であり、一般的には中空の金属の管で、電波や音波が伝えるために用いられます[16]。
参考文献
[1] 日本建設業連合会, 2019,「距離減衰、点音源、線音源、面音源」(2025年6月11日取得:https://www.nikkenren.com/kenchiku/sound/pdf/glossary/ka-0500.pdf)
[2] Bertagnolio, F., Madsen, H.Aa. and Fischer, A., 2017, A Combined Aeroelastic-Aeroacoustic Model for Wind Turbine Noise: Verification and Analysis of Field Measurements, Wind Energy, 20: 1331-1348.
[3] Hubbard, H H. and Shepherd K P., 1991, Aeroacoustics of Large Wind Turbines, The Journal of the Acoustical Society of America, 89: 2495-2508.
[4] Deshmukh, S, Bhattacharya, S., Jain, A. and Paul, A R., 2019, Wind Turbine Noise and its Mitigation Techniques: A Review, Energy Procedia, 633-640.
[5] Nukala, V B. and Padhy, C P., 2023, Concise Review: Aerodynamic Noise Prediction Methods and Mechanisms for Wind Turbines, Wind Energy, 20(8): 1313-1498.
[6] 今泉博之・高橋保盛・井清武弘, 2004,「数百mから数百kmに及ぶ屋外騒音の伝播特性」『騒音制御』28(4): 264-269.
[7] 野村卓史, 2006,「風車騒音の伝播におよぼす風の影響について」『第55回理論応用力学講演会講演論文集』44-50.
[8] Kelly, M C., Barlas, E and Sogachev, A., 2018, Satistical Prediction of Far-Field Wind-Turbine Noise, with Probablistic Characterization of Atmospheric Stability, Journal of Renewable and Sustainable Energy, 10(1): 013302.
[9] 石原国彦, 2025, 「騒音問題の解決に役立つ振動音源の基礎」CYBERNET(2025年6月2日取得:https://www.cybernet.co.jp)
[10] 山崎興樹・谷中隆明・富永利昭, 1983,「振動ふるいからの低周波空気振動による定在波の発生とその対策」『騒音制御』7(2): 105-108.
[11] 西脇仁一・小幡照夫・森卓支, 1976,「内燃機関の吸気口、排気口より発生する超低周波騒音および同用消音器」『日本騒音制御工学会技術発表会講演論文集』113-115.
[12] 落合博明, 2016,「シリーズ『低周波音に関わる苦情への対応』――第1回低周波音の基礎」『ちょうせい』85: 11-19(2025年6月19日取得:https://www.soumu.go.jp/main_content/000450912.pdf)
[13] 環境省, 2007, 『よくわかる低周波音』(2025年6月19日取得:https://www.env.go.jp/air/teishuha/yokuwakaru/full.pdf)
[14] Marcillo, O., Arrowsmith, S., Blom, P. and Jones, K., 2015, On Infrasound Generated by Wind Farms and its Propagation in Low-Altitude Tropospheric Waveguides, Journal of Geophysical Research, 120: 9855–9868.
[15] Mota, R., Subramanyam, R., and Jacob, S., 2023, Modeling Low-Frequency Noise in Ducted Atmospheres: A Modal Approach, 10th Convention of the European Acoustics Association: 4905-4907.
[16] 日本財団図書館, 2025, 『導波管』(2025年6月2日取得:https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00138/contents/0014.htm)
[17] 北海道大学大学院環境科学院地球圏科学専攻大気海洋物理学・気候力学コース, 2025,「大気境界層の科学」(2025年6月19日取得https://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/research/pbl.html)


