A. 建具のがたつきの原因の一つに共振が考えられます。共振は低周波音に限らず起こりえますが、工場や事業場から発生する超低周波音による建具のがたつき等が過去に多く報告されたことから、建具のがたつきは低周波音との関係で調査される傾向があります。
風力発電所の周辺でも建具のがたつきが報告されており、低周波音に関する調査が行われれました。その結果、ベッドと床の振動は風力発電所との関連は見られませんでしたが、窓の振動についてはブレードの回転との関連が見られ、風力発電所に起因する振動であることを示唆する調査結果が存在します。ただし、サンプル数が1件と非常に少ないため、より多くの調査に基づく評価が必要です。
解説
建具のがたつきの原因の一つに共振がある。共振とは、特定の周波数の振動で大きな振動をする現象で、すべての構造物や物で共振がおこる可能性がある。構造物や物には、それぞれ共振する周波数があり(共振周波数もしくは固有振動数と呼ぶ)、共振周波数は、基本的には構造物や物の形状と材質で決まる。この構造物や物の共振周波数が外力の振動数と一致した時に、振幅が最大になり共振がおこる。したがって、共振は低周波音に限らず起こりうるが、日本では昭和44年頃から、工場や事業場から発生する超低周波音による建具のがたつき等の物的苦情が増加し[1]、環境庁は建具ががたつき始める周波数や音圧レベルなどの調査を行い、「建具のがたつき閾値」を公表した(図1)。建具の低周波音に対する反応は20Hz以下程度の低い周波数では人の感度より高いため[2]、図1に示す水色の領域のように、低周波音を感じないのに窓や戸ががたつく場合がある。特に、近年では建物の遮音性が向上したことで、それまで気づかなかった低い周波数の音が気になりやすくなっている[3]。
風力発電所の周辺でも、建具のがたつきが報告されている。1985年の米国の調査報告書では、風力発電所から3km内の居住者から、ものがガタガタと音を出している、振動で天井からほこりが落ちてきたという例が報告されている[5]。また、デンマークでは、風力発電によって不快感を得ている189人を対象に振動に関する調査が行われ、その結果、回答者の28.8%が周囲の物の振動を感じると回答している[6]。さらに、オランダでは風力発電所から2.5km以内に居住者を対象に調査が行われたが、回答者の10%が振動を感じているという結果が報告されている[7]。日本においては、6畳間の部屋は共鳴振動を起こしやすいという主張もある[8]。こうした振動について、風力発電所の低周波音と関連付ける指摘がある[9]。
このような報告を背景に、風力発電所の近隣住宅において実際に振動を計測した調査がある。風力発電所から2.4km、3.3km、5km離れた3つの住居で、ベッドフレーム、床、窓の振動を調べた結果、ベッドと床については風力発電所との関連は確認されなかったが、窓の振動については風力発電所との関連が確認された[10]。ベッドの振動については、風力発電の発電量(power output)が高い時間帯は振動が小さく、風力発電の発電量(power output)が高ければ振動も大きくなるといった関係性は見られなかった。また、スペクトログラム(周波数の変化を視覚化したグラフ)では、風力発電の発電量が変動する一方で、23Hzで観測された支配的なピークは一定レベルであったことから、風力発電所からの23Hzの低周波音との関連性は確認されなかった。床の振動についても同様に、風力発電所の発電量との関連性は確認されなかった。また、ベッドと床で測定されたデータの周波数応答には、風力発電所特有の周波数成分が含まれていなかったため、ベッドと床の振動は風力発電所よりも周囲の振動の方が支配的であるという見方が報告されている。しかし、窓で測定された振動については、特定の周波数(28Hzと48Hz)において振幅変調され、それがブレードの通過と関連があることが確認された。したがって、住居3の窓の振動については、風力発電所による影響であると報告されている。ただし、当調査は3つの住居における調査であり、窓については1つの住居での調査結果であり、サンプル数が非常に少ない。風力発電所との関連についてはより多くの調査に基づき判断することが必要であろう。
風力発電所の周辺では建具のがたつきが報告されているが、この問題に関する研究は少なく1Science Directで「wind turbine low frequency AND vibration AND systematic review AND house」により論文を検索した結果、レビュー論文は129件(2025年3月18日検索)あったが、住居内の建具の振動に関する文献はほとんど検索されなかった。Alice Freibergらの論文(2025年3月17日取得, https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0013935118306145?via%3Dihub)では、生活環境に与える影響に関する論文をレビューしており、振動についても記述があるが、がたつきではなく不快感との関連で整理されている。風力発電の振動については、住居内の振動よりもナセル内の機械の振動に関する論文が多い。、現状では上述の調査のような限定的な調査結果の報告にとどまる。しかし、原因者側の責任については議論の余地があるものの、因果関係の特定ができないからと言って放置するのではなく、個別に振動対策を行うことなどにより、住民の苦痛を取り除くことはできるかもしれない。
表1 風力発電所の特徴
A風力発電所 | B風力発電所 | |
ハブ高 | 80m | 67m |
ローター半径 | 44m | 40m |
平均回転速度 | 16rpm | 17rpm |
規模 | 3MW×37基 | 2MW×23基 |
表2 調査概要
住居1 | 住居2 | 住居3 | |
風力発電所 | A風力発電所 | B風力発電所 | A風力発電所 |
風力発電所からの距離 | 3.3km | 5km | 2.4km |
調査内容 | ・ 加速度計をベッドに設置
・ マイクをベッド近くに設置 |
・ 加速度計を床に設置
・ マイクをベッドと床に設置 |
・ 加速度計を窓ガラスに設置
・ マイクを窓の近くに設置 |
調査期間 | 2013年7月24日〜8月1日 | 2014年5月6日〜5月19日 | 2013年6月14日〜6月25日 |
参考文献
[1] 環境省(2025年3月5日取得, https://www.env.go.jp/air/report/h23-03/02_chpt2.pdf)
[2] 町田信夫, 2022, 「低周波音と超低周波音の周波数範囲と騒音問題の変遷」『日本音響学会誌』78(7): 373-380.
[3] 落合博明, 2021, 「低周波音問題の変遷」『日本音響学会誌』77(8): 504-511.
[4] 川俣町, 2021,「特集 風力発電施設における騒音および超低周波音について」,『かわまた』 2021-2: 4-5. (2025年3月5日取得, https://www.town.kawamata.lg.jp/data/kouhoushi/pdf/202102/202102-03.pdf)
[5] Kelley N. D., McKenna H. E., Hemphill R. R., Etter C. L., Garrelts G. L., and Linn N. C., 1985, Acoustic noise associated with the mod-1 wind turbine: its source, impact, and control, Solar Energy Research Institute.(2025年3月18日取得, https://tethys.pnnl.gov/sites/default/files/publications/Kelley-1985.pdf)
[6] Møller H. and Lydolf M., 2002, “A questionnaire survey of complaints of infrasound and low-frequency noise”. Journal of Low Freq Noise Vib Active Control, 21: 53–63.
[7] van den Berg F, Pedersen E, Bouma J, and Roel B., 2008, Visual and acoustic impact of wind turbine farms on residents. (2025年3月18日取得, https://pure.rug.nl/ws/portalfiles/portal/14620621/WFp-final.pdf)
[8] 武田恵世,「風力発電の真実」, 2022年11月23日宮城県加美町宮崎福祉センターホール講演動画.(2025年3月5日取得, https://www.youtube.com/watch?v=Z46BV3MpWxM)
[9] Harvey H. Hubbard, 1982, “Noise Induced House Vibrations and Human Perception”, Noise Control Engineering Journal, 19(2): 49-55.
[10] Duc-Phuc Nguyen, Kristy Hansen and Branko Zajamsek, 2020, “Human perception of wind farm vibration”,Journal of Low Frequency Noise, Vibration and Active Control, 39(1): 17–27. (2025年3月5日取得, https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/1461348419837115)