A. これまでに発生した風力発電所の火災について、政府関係資料や損害保険会社の報告書、またインターネットで検索したところ、12件が確認できました。消火が困難であることから、風力発電所周辺への延焼が懸念されますが、これまでにそのような報道は新聞記事では確認されませんでした。
風力発電所の火災の原因となりやすい設備は風車の高い位置にあるナセルに格納されており、また、風力発電所は高地や海岸など人が近づくことが難しい場所に建設されることが多くあるため、一度火災が発生すると消火が困難であると言われています。
解説
風車が火災を起こす主な要因は(1)変圧器(落雷発生時の過電流・過電圧による)、(2)変圧器(停電復旧時の電源投入による)、(3)制御盤(落雷発生時の過電流・過電圧による)、(4)ブレーキ周辺(強風時の強制回転・摩擦熱による)である[1]。これらは全て地上から60〜100mの高いところにある風車のナセルに格納されているため、火災発生時の問題点は消火の困難さと言われている[1]。はしご車も地上からの放水も届かず、また、上空からは放水量が足りないため、消火は非常に困難である[1]。また、風力発電所は、高地や海岸、管理区域内に建設されることが多いことから、火災が発生しても早期に発見することが難しく、また、発見しても近づくことが難しい場合が多い [2]。
風力発電所の火災事故に関する資料は、経済産業省の「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ」の会議資料がある。当ワーキンググループでは、2013年から2022年までの期間における火災を含む様々な風車事故を取りまとめている。2013年以前の火災については、政府や風力発電協会等の資料は確認できなかったが、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントの報告書において、2002年から2014年までの国内の火災事故が報告されている [3]。電気保安統計にも、風力発電による火災事故が記載されているが、風車のみの火災は「電気火災事故」ではなく「破損事故」に計上されるため、火災件数を把握するのは難しい。
表1 風力発電所の火災事故に関する資料と特徴
機関 |
資料名 |
特徴 |
経済産業省 | 電気保安統計 |
電気保安統計における風力発電の統計は平成15年から記載されている。電気火災事故の件数が報告される。 電気火災事故の定義は、「発電機、電線路、変圧器、配線等に漏電、短絡、閃絡等の電気的異常状態が発生し、それによる発熱、発火が原因で、建造物、車両その他の工作物、山林等に火災を起こしたものをいう」 [4]。したがって、風車自体で火災が起こり、被害を受けたものが風車だけの場合は「電気火災事故」には計上されず「破損事故」に計上される。 |
経済産業省 | 「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ」会議資料 | 2013年から2022年までの期間における、火災を含む様々な事故が報告されている。 |
損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント | 損保ジャパン日本興亜RMレポート、139、「風力発電設備の火災事故と消火装置」 | 2002年から2014年までの国内の火災事故が報告されている。 |
以上より、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントの2002年から2014年までの報告、「新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ」の2013年から2022年の報告、また、補完的に行ったインターネット検索の結果を精査した。その結果、風力発電所の火災事故は12件が確認された(表2)。2023年12月末時点において、国内には2,626基の風車が導入されていることから、火災発生率は0.5%と言える。
消火が困難であることから、風力発電所の火災による周辺への延焼が懸念されるが、電気保安統計における発電所以外の建造物等への延焼を示す「電気火災事故」は、これまでに令和4年(2022年)の1件であった [5]。また、朝日新聞の新聞記事データベースで、風力発電所の火災について調べたところ1「風力発電」「火災」のキーワードで、異体字、同義語を含み検索した。検索日は2025年4月14日。、森林や隣接施設等への延焼に関する報道は確認できなかった。このことから、風力発電所の火災は主に風車単独であると考えられる。
表2 風力発電所の火災事故
No | 事故発生年月日 | 場所 | 概要 | 引用文献 |
1 | 2002年1月21日 | 青森県 | 試運転中の風車から出火。ブレードが火を噴きながら回転。ナ セルが全焼、ブレード2 枚が落下。 | 損保ジャパン[3] |
2 | 2003年9月30日 | 秋田県 | コンデンサのアークが可燃物に引火。ナセルが全焼したほか、ブレードも損傷。 | 損保ジャパン[3] |
3 | 2004年8月30日 | 佐賀県 | 台風停電時に強風でブレーキがスリップし火花が発生。ナセル、ブレード、タワーが火災損傷。 | 損保ジャパン[3] |
4 | 2011年10月2日 | 北海道 | 負荷開閉器を投入した際に、アークが発生。ナセルが全焼しブレードルート部も消失。 | 損保ジャパン[3] |
5 | 2012年4月19日 | 長崎県 | 回転軸付近から出火。ブレードが消失したほか、モーターカバーが熱で溶解。 | 損保ジャパン[3] |
6 | 2013年12月1日 | 福井県 | 落雷によりナセル内から出火。ブレード3 枚が焼失、落下。ハブ、ナセルも焼損。 | 損保ジャパン[3] |
7 | 2014年2月14日 | 静岡県 | 地域の停電が発生、復電後ナセル内から出火した。4 時間後に 鎮火したがナセルが全焼。 | 損保ジャパン[3] |
8 | 2017年8月21日 | 佐賀県 | 遠隔監視により風車停止を確認。風車の再稼働後にトランスヒューズでアークが発生。ナセル本体およびブレードに延撚。 | 経産省ワーキンググループ第13回[6] |
9 | 2019年4月 | 北海道 | 運転中に「ベアリング温度高」警報が発生し風車が停止。軸受が損傷し、主軸がずれたことにより火災が発生。ナセル損傷、ブレード2 枚のうち一部が損傷。 | 経産省ワーキンググループ第20回[7] |
10 | 2020年12月20日 | 秋田県 | 制御盤内のDCリンクキャパシタ破損、ブスバーとの間でアークが発生し、その熱により発火。ナセル全焼、ブレードの一部焼損。 | 経産省ワーキンググループ第26回[8]、(株)ユーラステクニカルサービス[9] |
11 | 2021年2月1日 | 山形県 | 長期間運転を継続してきた中で塩分、粉塵等が端子台およびその周囲に蓄積された可能性や脆化によるクラック等の可能性。複数の微小な地絡電流が発生し火災。ハブ制御盤周囲が焼損。 | 経産省ワーキンググループ第28回[10] |
12 | 2021年11月28日 | 青森県 | サーキットブレーカー取付ボルト近傍の地絡による出火。ナセル焼失。 | (株)ユーラステクニカルサービス[11] |
参考文献
[1] 初田智之, 2018,「風力発電設備における火災発生リスクと自動消火装置」,『電気設備学会誌』, 38(3): 175-178.
[2] ニチボウ, 「風力発電の火災対策」, (2025年1月30日取得, https://www.sppcl.co.jp/solution/pick-up/pdf/fireerase_relation03.pdf)
[3] 足立慎一, 2015, 「風力発電設備の火災事故と消火装置」, 損保ジャパン日本興亜RMリポート, 139,(2025年1月30日取得, https://image.sompo-rc.co.jp/reports_org/r139.pdf)
[4] 経済産業省, 電気関係報告規則第3条及び第3条の2の運用について,令和3年3月31日制定, 令和6年4月15日一部改正(2025年4月9日取得, https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/law/files/240415houkoku3zyou.pdf)
[5] 独立行政法人製品評価技術基盤機構(nite), 2025, 電気保安の現状について(令和5年度電気保安時計の概要), (2025年4月9日取得, https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/files/r5_hoantokei_gaiyou.pdf)
[6] 第13回 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2025年2月5日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/013_03_01.pdf)
[7] 第20回 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2025年2月5日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/020_02_01.pdf)
[8] 第26回 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2025年2月5日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/026_02_00.pdf)
[9](株)ユーラステクニカルサービス(2025年2月5日取得, https://www.eurus-energy.com/cms/wp-content/uploads/西目2号機火災事故要約版.pdf)
[10] 第28回 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(2025年2月5日取得, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/028_02_00.pdf)
[11](株)ユーラステクニカルサービス(2025年2月5日取得, https://www.eurus-energy.com/cms/wp-content/uploads/野辺地5号機火災事故要約版.pdf)