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A. 風力発電施設による昆虫への影響は、主に、風力発電施設への衝突、音や振動などによる影響、生息地の喪失などがあります。

風力発電施設への昆虫の衝突は個体数に影響を与える可能性が指摘されていますが、個体数の減少には風力発電以外にもさまざまな要因があるため、風力発電施設の影響の程度はまだ十分に明らかにされていません。

風車音や振動などの昆虫への影響については、ミツバチを対象とした調査が行われましたが、悪影響を及ぼす根拠は確認されませんでした。

また、生息地の喪失については、風力発電施設の建設よって希少種の生息地が失われることや、工事によって外来種が持ち込まれることにより、それまでの生態系が破壊されることが懸念されていますが、実際にどのような影響が生じるかについてはまだ明確にはわかっていません。

解説

風力発電施設による昆虫への影響は主に、(1)風力発電施設への衝突、(2)風力発電施設から発生される音や振動などによる影響、(3)風力発電施設の建設による生息地の喪失がある。

風力発電施設への衝突については、ドイツの研究者によって植物の成長期(4月から200日間)に昆虫が風力発電施設に衝突する量を調べるために、モデル計算が行われた。その結果、ドイツでは年間約1,200 トンの飛翔性の昆虫が衝突し死亡するという推定がなされた[1]。これは、温暖な季節では1日あたり約50〜60億匹に相当し、飛翔性の昆虫の個体数に影響を与える可能性がある数である[1]。しかし、昆虫の多様性や生態系機能にどのような影響があるかについて判断するためには、データが不足していると指摘されている[2]。また、英国のロビー団体であるGlobal Warming Policy Foundationによると、過去20年間で飛翔性の昆虫が75%減少したと推定されているが、これと風力発電施設の相関についてはまだ明らかにされていない[3]。昆虫への影響は、農業、単一栽培、土地の開墾[3]や、残留性の有害物質、気候変動など様々な要因が関係する。風力発電施設も昆虫の死亡を招いているが、それがどの程度の影響であるかはまだ明らかにされていない。

風車音や振動などによる昆虫への影響については、風力発電施設の近くに養蜂場を設置しミツバチへの影響を調査した研究がある。この研究ではミツバチのコロニーレベルにおける産卵活動、体重、行動や、ミツバチの個体レベルでの帰巣本能について調査が行われた。その結果、ミツバチの死亡率、産卵活動、帰巣本能、行動、発達、機能などに関する影響は確認されず、風力発電施設によるミツバチへの悪影響を根拠づけるデータはないと報告されている[4]

風力発電施設の建設による生息地の喪失については、本稿を執筆するにあたり十分な情報が得られなかったが、希少種に対する警戒は一般的に高いと言える。湿原や高原などには絶滅危惧種に指定されている蝶やトンボなどが生息する場合もあり、解説

こうした場所を避けて風力発電施設を建設しても、機材の運搬道路の建設などにより、元々生息していなかった外来種が持ち込まれる可能性があるため、それまでの生態系が破壊されるという懸念がある[5]

昆虫には花粉を運ぶ役割があり、また、昆虫を捕食する動物がいることから、昆虫は生物多様性に不可欠な存在である。しかし、現状では、花粉媒介者への影響に関する研究はほとんど存在せず[4]、また、前述の通り、昆虫に影響を与える要因は風力発電以外にもさまざまあるため、風力発電が昆虫に影響を与える可能性を指摘するにとどまっている。

参考文献

[1] Trieb, F., Gerz, T., and Geiger, M., 2018, Modellanalyse liefert Hinweise auf Verluste von Fluginsekten in Windparks, Energiewirtschaftliche Tagesfragen, 68: 51-55.(2024年9月11日取得, https://www.agrarheute.com/sites/agrarheute.com/files/2019-03/et_1810_10_3_trieb_bcdr_51-55_ohne.pdf

[2] Christian C. Voigt, 2021, Insect fatalities at wind turbines as biodiversity sinks, Conservation Science and Practice, 3:e366.(2024年9月11日取得, https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/csp2.366

[3] The Global warming Policy Foundation, 2019, The impact of wind energy on wildlife and the environment Paper from the Berlin seminar.(2024年9月11日取得, https://www.thegwpf.org/content/uploads/2019/07/wind-impact-1.pdf, <日本語訳:https://cigs.canon/uploads/2023/01/The_Impact_of_Wind_Energy_Sugiyama_202301.pdf>)

[4] Fourrier, J., Fontaine, O., Peter, M., Vallon, J., Allier, F., Basso, B., and Decourtye, A., 2023, Is it safe for honey bee colonies to locate apiaries near wind turbines?, Entomologia Generalis, 43(4): 799-809.

[5] 日本自然保護協会, 2006年7月1日, 【事例3】希少植物・昆虫たちが暮らす草原や湿原の影響調査が不十分ではないか?(静岡県)(2024年9月11日取得, https://what-we-do.nacsj.or.jp/2006/07/908/