A. 障壁影響とは、鳥が風力発電所を避けることによりその周辺を長時間飛行する現象のことです。鳥は衝突の危険があるほど風力発電に接近することは稀で、タービンから遠い距離でも警戒心が高いため、風力発電全体を回避する可能性が高いです。
ただし、これは種によって異なり、至近距離で回避行動をとる種もあります。回避行動をとると個体への負担がかかり、体重減少などが懸念されますが、一つの風力発電所を回避するコストはそれほど大きくないことが示されています。例えば、1,400kmほどの長距離を移動する渡り鳥は、不利な風の条件で飛行を続ける方がエネルギーコストが高いと言われています。
解説
障壁影響とは、風力発電所の建設によって鳥類が物理的に排除され、渡りの際や営巣地(コロニー)と採食地間の移動の際に、開発地の周囲を長時間飛行しなければならない現象のことです [1][2]。鳥類が風力タービンを回避する行動は、マクロ、メゾ、ミクロの3つの異なるスケールで捉えられます [2][3]。
マクロ回避は風力発電所への侵入を避ける行為、メゾ回避は個々の風車を避ける行為、ミクロ回避はブレードとの衝突を避ける行為を指します。障壁影響はマクロ回避に含まれます。
このような回避に関する研究には、その回避行動の背景にあるメカニズムを文献レビューから明らかにしようとしたものがあります [4]。それによると、① 鳥は風力タービンの数が多い風力発電所で予測的反応を強化する、② 大型で稼働中のタービンは鳥類による検知確率を高め、飛行開始距離を長くする、という可能性が示唆されています。これらはいずれも事例研究に基づく予測であり、それらを検証する研究が十分でないことには注意が必要です。
鳥類は本当に風車をマクロ回避しているのでしょうか。Cookらは、北欧のいくつかの風力発電所が5種の鳥類の飛行に影響を与えているかどうかを明らかにするため、文献レビューを行いました [2]。その結果、マクロな回避が見られる証拠は限られていました。
例えば、オランダの調査では、海鳥であるキタシロカツオドリ1 カツオドリ属の中で環境省レッドリスト2020に載っているのはアカアシカツオドリのみ(絶滅危惧IB類(EN))である。 (n=81)の回避率は64% [5]、デンマークの風力発電所で他の方法で調査した研究ではカツオドリ(n=74)の回避率は84%という結果が出ています [6]。このように、調査場所や調査手法によって回避率が大きく異なり、鳥類が必ずしもマクロ回避をするとは断言できません。また、これらの事例では開発前のデータがないため、有意性の解釈には注意が必要です。
2018年のCookらのレビュー論文時点では、回避行動に影響を与える可能性のある要因や、洋上における季節や場所ごとの変動がどの程度あるのかについて、ほとんど検討されていません。さらに、海鳥への洋上風力発電所による影響については、鳥の垂直回避と水平回避を区別することや、季節的・空間的プロセスが回避行動にどのような影響を与えるかについての理解を深めることが重要であると指摘されています [2]。ただし、猛禽類 2 猛禽類で環境省レッドリスト2020に載っているのはカンムリワシ、キンメフクロウ、ワシミミズク、シマフクロウが絶滅危惧IA類(CR)、イヌワシ、 オガサワラノスリ チュウヒ、クマタカが絶滅危惧IB類(EN)、サシバ、オジロワシ、オオワシ、ダイトウコノハズク、リュウキュウオオコノハズクが絶滅危惧II類(VU)である。 に関しては、障壁影響かどうかにかかわらず、風車の立地地域において生息地が有意に減少することが示されています [7]。
鳥類がマクロな回避をすることは、ブレードとの衝突を避けることにつながります。しかし、その一方で、個体に負担がかかり、繁殖などに影響を及ぼす可能性が懸念されています。
水鳥であり渡り鳥でもあるケワタガモ(eider)3 ケワタガモは環境省レッドリスト2020には掲載なし。 について、風力発電所付近(72基の洋上風力発電所)での渡りの軌道を調査・分析した研究があります [1]。この研究によると、風車の建設前後の飛行軌跡を比較した結果、飛行距離が 104m 増加しており、つまり回避していることが確認されました。しかし、この飛行によるコストがケワタガモに与える影響は小さいと考えられています。ケワタガモは 1,400km 以上を移動するため、不利な風条件での飛行によるエネルギーコストの方が大きいとされています [1]。
それでも、対象とした72基の洋上風力発電所と同様の発電所が100ヶ所存在し、それを全て回避した場合には、ケワタガモの体重が1%減少する可能性があるとされています [1]。複数の風力発電所の建設による累積的な影響が個体に与える負担については、注意が必要です。
参考文献
[1] Masden, Elizabeth., Daniel T. Haydon, Anthony D. Fox, Robert W. Furness, Rhys Bullman and Mark Desholm, 2009, “Barriers to Movement: Impacts of Wind Farms on Migrating Birds”, ICES Journal of Marine Science, 66(4): 746–75.
[2] Cook, Aonghais S.C.P., Elizabeth M. Humphreys, Finlay Bennet, Elizabeth A. Masden and Niall H.K. Burton, 2018, “Quantifying Avian Avoidance of Offshore Wind Turbines: Current Evidence T and Key Knowledge Gaps”, Marine Environmental Research, 140: 278-288.
[3] Cook, A.S.C.P., Humphreys, E.M., Masden, E.A. and Burton, N.H.K., 2014. “The Avoidance Rates of Collision between Birds and Offshore Turbines”, Scottish Marine and Freshwater Science, 5(6).
[4] May, Roel F, 2015, “A Unifying Framework for the Underlying Mechanisms of Avian Avoidance of Wind Turbines”, Biological Conservation, 190: 179-187.
[5] Krijgsveld, K.L., Fijn, R.C., Japink, M., Van Horssen, P.W., Heunks, C., Collier, M.P., Poot, M.J.M., Beuker, D. and Dirksen, S., 2011, “Effect Studies Offshore Wind Farm Egmond Aan Zee”. (2024年9月18日取得, https://tethys.pnnl.gov/sites/default/files/publications/Krijgsveldetal2014.pdf)
[6] Skov, H., Leonhard, S.B., Heinanen, S., Zydelis, R., Jensen, N.E., Durinck, J., Johansen, T.W., Jensen, B.P., Hansen, B.L., Piper, W. and Gron, P.N., 2012. “Horns Rev 2 Monitoring 2010-2012. Migrating Birds”. (2024年9月18日取得, https://tethys.pnnl.gov/sites/default/files/publications/Horns_Rev_2_Migrating_Birds_Monitoring_2012.pdf)
[7] Campedelli. T, G. Londi, S. Cutini, A. Sorace and G. Tellini Florenzano, 2013,”Raptor Displacement due to the Construction of a Wind Farm: Preliminary Results after the first 2 years since the Construction”, Ethology Ecology & Evolution, 26(4): 376-391.