第4章 文献リストの作成(Harvard Style)

2012年1月2日

論文中で用いた文献の書誌情報は巻末の文献表にまとめます。この文献表は議論の典拠を明確にするという極めて重要な意味を持っています。不適切な文献表示は論文の信頼性を著しく損ないます。典拠文献の書誌情報を表示しないというのは論外であり、この場合は卒業論文の単位は出ない(つまり不可)と思って下さい。

 1.文献表示の基本
 2.引用との関連
 3.欧文編
 4.邦文編
 5.欧文邦訳編
 6.練習問題

1.文献表示の基本
 この文献表示については、いくつかの標準的な方法があります。ここでは、そのうち最近の標準であるハーバード方式を紹介します。
 ハーバード方式に限らず、文献表で表示するべき情報はほぼ決まっています。すなわち、引用される論文に関する以下の情報が表示されなければなりません。

  ①著者(編者)
  ②発行年(基本的に西暦を用いる)
  ③文献名
  ④文献の発行元・所収元

 基本はこの4項目です。ただし、本の場合や雑誌論文の場合、論文集の中の1論文の場合、洋書の翻訳書の場合など、どのような文献をリストに載せるかによって表示すべき項目に若干の違いがあります。
 各項目の間はコンマ(,)で区切ります。スペースやピリオドで区切る場合もあります。で、ひとつの文献を書き終えた後には必ずピリオド(.)をつけます。
 また、4項目の表示の順番や、項目を何で区切るかなどについては、出版社や雑誌編集者によって若干の違いがありますので、詳しく調べたい人は、以下の雑誌の執筆要領を参照して下さい(いずれの雑誌も研究室にあります)。

 『家族社会学研究』:
  日本の学会誌の執筆要領の中では、一番体系的である。

 American Journal of Sociology(A.J.S.と略記される):
  日本の社会学の学会誌は、これに準拠して執筆要領を作成している場合が多い。

 American Sociological Review(A.S.R.と略記される):
  アメリカ社会学会の学会誌で、A.J.S.とならぶ権威ある雑誌である。

 British Journal of Sociology(B.J.S.と略記される):
  こちらはイギリスの学会誌である。

 Kolner Zeitschrift fur Soziologie und Sozialpsychologie:
  ドイツの学会誌の場合は、これに準拠することが多い。

 Cahiers Internationaux de Sociologie:
  フランスの学会誌に準拠したい場合は、多分これでしょう。

 最後に、文献の情報は、和書の場合は奥付け(洋書の場合は前付け)にある、タイトル、出版年を参考にします。表紙や背表紙でも文献のタイトルはわかりますが、一番正確な情報は奥付けや前付けにあるので、ここを参照するようにしましょう。

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2.引用との関連
 文献表は、第3章の2で示した引用の方法と関連しています。本文中では、引用した文献の著者名と発行年しか示されません。そこで、このふたつの情報を手がかりに、何というタイトルの文献で、出版社はどこなのか、あるいはどの雑誌に所収されている論文なのかを、わかるような形式で文献リストを構成しなければなりません。
 まず、文献リストでは、必ず著者名が最初にきます。その次に発行年を持ってくれば、本文中の文献引用表示と照らし合わせやすいでしょう。その次が文献名です(よく、文献名を最初にして並べる人がいますがこれは間違いです)。
 文献の並べ方は、著者名のアルファベット順で並べます。日本人の著者名は、ローマ字表記で考えて、やはりアルファベット順にします。文献数が膨大な場合は、欧文献と邦文献に分けて期すという方法もあります。この場合は、邦文献は五十音順に並べてもかまいません。

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3.欧文編
 卒業論文の場合、文献表に記載する文献の大半は日本語で記された邦文の文献です。しかし、日本の学会誌の多くがA.J.S.に準拠していることからわかるように、文献表示の方法は欧文の文献にあわせて作られています。それを移植して、邦文の文献表示の方法も作られるのです(たからというわけではないが、邦文の文献の表示方法は、未だに、国内で不統一となっている)。
 そこで、まず基本となる欧文の文献の表示方法から示していきます。文献名は、書名および雑誌名はイタリック体で記すか下線を引き、論文名はクォーテーションマーク(“”)でくくるのが基本です。

a.単著の本の場合

 姓, 名, 出版年, タイトル:サブタイトル, 出版社所在地:出版社名.

 記載の順番は、姓のアルファベット順です。
 著者の部分について詳しく言うと、たとえばマートンの場合、 Merton, Robert K.,と書きます(下線部が例の部分)。Kはミドルネームで、そ後のピリオドは省略記号のピリオドです。ウェーバーのようにミドルネームがない場合は、 Weber, Max,となります。それから、姓と名との間にはコンマが必要ですが、名とミドルネームの間にはコンマは必要ありません。
 タイトルはイタリック体で書くか、アンダーラインを引きます。またサブタイトルがある場合は、コロン(:)で区切ってサブタイトルを書きます。
 出版社名については、正式にはその所在地名も明記します(最近は出版社名しか明記しない場合もある)。
 最後はピリオドで締めます。

《例》
 Castells, Manuel, 1983, The City and the Grassroots, Berkeley:University of California Press.
 Fischer, Claude S., 1982, To Dwell Among Friends : Personal Networks in Town and City, Chicago:U. of Chicago P..

 →コメント:大学の出版局は、大抵は University of Nagoya Pressと表記されるが、これをいちいち書いていると面倒なので、U. of Nagoya P.と記すことが多い。この場合のピリオドは省略記号なので、最後にもうひとつ、文献の区切りのピリオドが必要になります。

 Oberschall, Anthony, 1993, Social Movements, New Brunswick, New Jersey:Transaction Books.
 →コメント:New Brunswickのようなあまり有名でない場所に出版社がある場合は、コンマでいったん区切り、州名(N.J.など略号でもよい)を書いておきます。

 Urry, John, 1995, Consuming Places, London:Routledge.
 →コメント:Routledgeという出版社の所在地はLondon and New Yorkとなっています。このような場合は奥付(といっても洋書の場合、奥付けの情報が奥についているのではなく中表紙の次に来るの)のFirst Publishedがどちらになっているかで確認します。

b.単著の雑誌論文の場合
 姓, 名, 出版年, “タイトル:サブタイトル”, 所収雑誌名, 号数:ページ数.

 基本は、単著の本の場合と同じですが、雑誌論文の場合は、出版社名の代わりに雑誌名と号数を書きます。その雑誌の出版社名を明記する場合もあります。
 雑誌名は、書名と同様にイタリック体で書くか、アンダーラインを引きます。
 A.J.S.やA.S.R.のような有名な雑誌の場合、略号を用いてもかまいません。
 雑誌によっては、何巻の何号で通巻何号という数え方をするものもあります。その場合は、巻数を号数をハイフンで結んで書きます。

《例》
 Abbott, Andrew, 1995, “Things of Boundaries”, Social Research, 62-4:857-882.
 Edwards, Mark E., 1996, “Pregnancy Discrimination Litigation : Legal Erosion of Capitalist Ideology Under Epual Employment Opportunity Law”, Social Force, 75-1:247-268.
 →コメント:本と同じく、サブタイトルはコロンでつなぐ。

 Chabot, Russell R., 1995, “Gazing at Symbolic Interactionists : A Photo Essay”, Studies in Symbolic Interaction, 19:3-33.
 →コメント:これは年報なので、一見本にみえるが雑誌論文扱いとなる。
 
 Turner, Ralpf H., 1969a, “The theme of Comtemporary Social Movements”, British Journal of Sociology, 20-4:390-405.
 Turner, Ralpf H., 1969b, “The Public Perception of Protest”, A.S.R., 34-6:815-831.
 →コメント:同じ著者が書いた同じ発行年の違う本や論文を引用する場合は、発行年の後ろにa,b,を付けて区別する。

c.単著で論文集に掲載された論文の場合
 姓, 名, 出版年, “タイトル:サブタイトル”, 編者名, 所収書名, 出版社所在地:出版社名, ページ数.

 ある本にいくつかの論文が集めてある本を論文集といいます。ここに所収された論文を引用する場合は、論文集の情報だけでなく、論文の情報まで記載しなければなりません。
 おおよそは、雑誌論文と同じです。

《例》
 Melucci, Alberto, 1994, “A Strange Kind of Newness : What’s “New” in New Social Movements?”, Larana, Enrique, Hank Johnston and Joseph R. Gusfield edited, New Social Movement : From Ideology to Identity, Philadelphia:Temple University Press, 101-130.
 Rosenthal, Leslie, 1991, “Unemployment Incidence Following Redundancy:the Value of Longitudinal Approaches”, Dex, Shirley edited, Life and Work History Analyses, London:Routledge, 187-213.

d.2人以上で共著の場合
 著書にせよ論文にせよ、共著の場合、2人ならandで著者の名前をつなぎます。3人以上は、コンマでつなぎ、最後の著者だけandでつなぎます。著者名の表記は、2人目以降は、例えばブラウだと、Peter M. Blau,と、名、ミドルネーム、姓の順で書くので注意すること。

《例》
 Berg, Peter, Eileen Appelbaum, Thomas Bailey and Arne L. Kalleberg, 1996, “The Performance Effect of Modular Production in the Apparel Industry”, Industrial Relations, 35-3:356-373.
 →コメント:これは雑誌論文の場合

 Mayer, Margit & Poland Roth, 1995, “New Social Movements and the Transformation to Post-Fordist Society”, Darnovsky, Marcy, Barbara Epstein and Richard Flacks edited, Cultural Politics and Social  Movements, Philadelphia:Temple University Press, 299-319.
 →コメント:複数の編者による論文集所収の共著論文の表記はこんなに長くなる。著者名は、andではなく&でつないだ。

 Park, Robert E. and Ernest W. Burgess, 1921, Introduction to the Science of Sociology, Chicago:U. of Chicago P..
 →コメント:これは本の場合

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4.邦文編
 卒業論文で、最もよく使用する文献が、邦文の文献です。邦文の文献をリスト化する場合も、基本的には欧文の文献と同じ並びとなります。ただし、著書名や雑誌名はイタリック体やアンダーラインでなく『』でくくり、論文名はクォーテーションマークでなく「」でくくる、出版社の所在地は記載しないなど、若干異なる部分があります。また、コンマやピリオドのかわりに、点と丸と使う場合や、全角スペースで区切る場合もあります。ただし、欧文の文献と邦文の文献を混ぜて文献表を作る場合は、邦文の文献にもコンマとピリオドを使う方が、統一がとりやすいでしょう。

a.本の場合
 著者名, 出版年, 『タイトル?サブタイトル?』, 出版社名.

 邦文の文献も、著者名のアルファベット順で記載します。
 著者名は、普段どおりに姓名の順で書きます。
 タイトルは二重鍵括弧でくくります。またサブタイトルがある場合は、タイトルの後ろにダッシュ(?)でくくって書きます(日本語ワープロではダッシュが出ないことが多いため、ハイフンをふたつ繋いで代用することが多い)。最近は、サブタイトルの後ろのダッシュを省略するという傾向にありますが、今のところは、後ろのダッシュをつけるかつけないかは、好みの問題です。
 著者が2人以上の場合は、中黒(・)で繋ぎます。

《例》
 長谷川公一, 1996, 『脱原子力社会の選択?新エネルギー革命の時代?』, 新曜社.
 今井賢一・金子郁容, 1988, 『ネットワーク社会論』, 岩波書店.
 →コメント:著者が複数名の場合はこうなる。

 奥田道大, 1993, 『都市と地域の文脈を求めて?21世紀システムとしての都市社会学』, 有信堂.
 →コメント:サブタイトルの後ろのダッシュがない場合。この場合、行ずれをおこさずにすむ。

 栃内良, 1993, 『女子高生文化の研究?時代を先取りする彼女達の感性をどうキャッチするか』, ごま書房.
 →コメント:本のキャッチコピーと思っていたらサブタイトルだったなんてこともある。このような場合があるので、奥付けでタイトルを確認しなくてはならなくなる。

b.雑誌論文、論文集に掲載された論文の場合
雑誌論文の場合:
 著者名, 発行年, 「タイトル?サブタイトル?」, 『所収雑誌名』, 号数:ページ数.
論文集に掲載された論文の場合:
 著者名, 発行年, 「タイトル?サブタイトル?」, 編者名, 『所収書名』, ページ数.

 論文には、雑誌掲載のものと論文集のような本に所収されるものがありますが、どちらの場合も、まずその論文の情報を記載した後、所収された雑誌あるいは本の書誌情報を記載します。
 科研費報告書の類もこれに準じます。

《例》
 阿部耕也, 1997,「会話における〈子ども〉の観察可能性について」, 『社会学評論』, 47-4:445-460.
 長谷川公一, 1991, 「地方拠点都市における反原子力運動の運動過程」, 『都市計画と都市社会運動の総合的研究(平成元年度科学研究費補助金研究成果報告書[課題番号63301026])』, 7-47.
 町村敬志, 1981, 「都市社会の全体性と社会学的知識の役割」, 『ソシオロゴス』, 5:122-133.
 野沢慎司, 1992, 「インナーエリアとコミュニティの変容」, 高橋勇悦編, 『大都市社会 のリストラクチャリング?東京のインナーシティ問題?』, 日本評論社, 125-152.

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5.欧文邦訳編
 参考文献の中で意外と多いのが、和訳の文献です。もちろん、和訳に問題があることもあるので、和訳に完全に頼らずに原典をあたる方が望ましいのですが、その場合でも和訳があるものはそれを参考にした方が読む速度は早まりますし、語学力がない場合は、とりあえず和訳に依存せざるを得ません。
 さて、欧文の文献の和訳を文献表に載せる場合には、原典の書誌情報と和訳の書誌情報の両方を記載します。和訳文献には普通、どの文献の和訳なのかを明記してあります。逆に言うと、原典が何であるのかを明記していない和訳は怪しいと思ったほうが良いでしょう。文献表には、最初にその明記された原典の書誌情報、次に和訳の書誌情報の順で記載します。

a.本の場合
 原典の書誌情報(欧文編を参照).=訳者名, 出版年, 『タイトル?サブタイトル?』, 出版社名.
 原典の書誌情報は、普通は訳書の最初の部分に記載されています。また、訳者の解説の部分に書誌情報を書いている場合もあります。ただし、ごくまれに不十分な書誌情報しか記載されていない場合があります。その場合は図書館などで原典の書誌情報を探すしかありません。
 基本的には、原典の書誌情報と和訳の書誌情報とをイコール(=)でつなぎます。和訳の書誌情報を括弧でくくり、イコールを使用しない場合もあります。
 和訳の書誌情報には、著者名の代わりに訳者名を記載します。

《例》
 Durkheim, Emile, 1960, Le suicide : etude de sociologie, Paris:Presses Universitaires de France.=宮島喬訳, 1985, 『自殺論』, 中央公論社.
 →コメント:和訳の底本が、1960年出版の版を使用しているということなので、ここでは原典の出版年は1960年としておく。

 Fischer, Claude S., 1984, The Urban Experience(Second Edition), Orlando, FL:Harcourt Brace Jovanovich.=松本康・前田尚子訳, 1996, 『都市的体験?都市生活の社会心理学?』, 未来社.
 Fromm, Erich, 1941, Escape from Freedom, N.Y.:Reinehart and Winston.=日高六郎訳, 1951, 『自由からの逃走』, 東京創元社.
 Piore, Michael J. & Charles F. Sabel, 1984, The Second Industrial Divide : Possibilities for Prosperity, N.Y.:Basic Books.=山之内靖・永易浩一・石田あつみ訳, 1993, 『第二の産業分水嶺』, 筑摩書房.

b.雑誌論文の場合
 原典の書誌情報(欧文編を参照).=訳者名, 発行年, 「タイトル?サブタイトル?」, 所収雑誌名, 号数:ページ数.

もしくは.

 原典の書誌情報(欧文編を参照).=訳者名, 出版年, 「タイトル?サブタイトル?」, 所収書の編者名, 『所収書名』, ページ数, 出版社名.

 欧文の論文の和訳がなされる場合、それが雑誌に掲載されることはあまりありません。むしろ、いくつかの論文の和訳を集めた論文集に掲載されることの方が多いです。

《例》
 McCarthy, John M. & Mayer N. Zald, 1977, “Resource Mobilization and Social Movements:A Partial Theory”, A.J.S., 82-6:1212-1241.=片桐新自訳, 1989, 「社会運動の合理的理論」, 塩原勉編, 『資源動員と組織戦略?運動論の新パラダイム』, 新曜社, 21-58.
 →コメント:これは、社会運動論の有名な論文の和訳を集めた本の中にある論文を文献表に載せる場合の例。原典は、雑誌に掲載された論文である。

 Young, Iris M., 1989, “Polity and Group Difference : A Critique of the Ideal of Universal Citizenship”, Beiner, Ronald ed., 1995, Theorizing Citizenship, Albany:State University of New York Press, 175-207.=施光恒訳, 1996, 「政治体と集団の差異?普遍的シティズンシップの理念に対する批判?」, 『思想』, 867:97-128.
 →コメント:こちらは、和訳が雑誌に掲載された場合の例。ちなみにAlbanyは、NY州の州都です。

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6.練習問題
 ところで、文献表の作成は、一朝一夕にして出来るものではありません。提出間際で大丈夫と思っていると痛い目にあうでしょう。この文献表の作成に必要なのは、時間をかけることと経験です。てなわけで、練習ついでに卒業論文用にリストアップした文献の文献表を作ってみましょう。