第4章 構想発表に向けて

2012年1月1日

 1.残された時間は少ない
 2.テーマを決める
 3.アプローチ術
 4.本・本・本
 5.Sotsuron Resourse

1.残された時間は少ない

社会学講座への分属決定から卒業論文の提出までのスケジュールは、だいたい以下のようになっている。
《2年生》:
 まず、2年生の間に社会学の基礎体力を身につけておくことが大切である。この基礎体力の鍛錬を怠ると、いざ卒業論文を書くとき神にすがるしかなくなるのだが、あいにく社会学研究室には疫病神と貧乏神しかいない。

《3年生》:
 3年生にとっても、基礎体力の鍛錬が一番重要であるが、3年次の後半ともなると、テーマの決定や、先行研究の検討、資料収集をはじめたい。遅くとも、4年生が卒論を提出する1月頃には、テーマぐらいは決定しておくことが必要だ。

《4年生》
 4月初旬:構想発表用のレジュメ作成
 4月中旬:この頃から慌てて卒論に取りかかると、先生の視線が冷たく感じられる。
 4月下旬:卒業論文構想発表会
 5~7月:文献および資料の収集、論文の輪郭形成
 夏期休暇:資料の収集および論文の輪郭形成は、この時期までに終了していることが望ましい。
 調査を行う場合は、夏休み中に実施しなければ、絶対に手遅れになる。
 9月中旬:卒業論文中間発表会
 10~11月:第1稿執筆
 11月中旬:卒業論文題目を提出する。事前に文学部教務掛にて用紙を入手、社会学講座の指導教官の承認印を受けた後、期日までに教務掛に題目を提出する。提出しなければ卒論執筆資格はなくなる。また、提出した題目の変更は認められない。
 11~12月:改訂稿を執筆する。注釈リストや文献表の作成も忘れてはいけない。
 1月初旬:卒業論文提出期限(時間厳守)
 1月下旬:卒業論文発表会(がたぶんある)
 2月初旬:口頭試問(卒論要旨集原稿締切でもある)

 最初の関門は、4月の構想発表だ。これは、卒業論文のスタート地点ではない。構想発表に向けての準備は、何ヶ月も前に始めるべきものである。ところが、この準備作業を始めるのは4月から、というのが例年のパターンであり、構想発表時に「あえなく撃沈」する4年生が後を絶たない。いや撃沈ならまだマシで、「出港前に座礁」してしまうケースすらある。この悲惨な事態を避けるためには、とにもかくにも準備作業を早めに行うことである。諸般の事情を考えると、3年生の12月頃には準備を開始することが望ましい。作業日程に余裕があれば、不測の事態にも適切に対処できるし、早めに構想ができあがっていれば、いろいろな人からアドバイスをもらって、問題点を改善する事もできる。
さて、4月の卒論構想発表の際には、1週間ほど前にレジュメを提出する。これには、卒業論文構想の全体像が示されていなければならない。ここ数年のレジュメは、

 ①問題意識(テーマ設定とした方がよい)
 ②アプローチ
 ③参考文献(ちゃんと読んでからリストアップする)

 という構成になる傾向にある(なぜ、このような構成になったんだろう?)。以下、この構成順に、卒業論文構想の仕方について考えてみよう。

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2.テーマを決める

問題意識よりも、テーマ設定あるいは問題設定と言った方がいいだろう。問題意識だと、「私は○○がやりたい」という自己主張で終わってしまうことが多い。
卒業論文のテーマは、卒業論文執筆者が自ら決定すべきものであって、教官といえどもテーマを強制することはできない。テーマ設定は、卒業論文の最重要課題のひとつなのだ。しかし、たいていの場合、このテーマ設定がなかなかうまく行かない。テーマ自体が決まらない場合もあるし、テーマが茫漠としている場合もある。
テーマは、自らの問題意識にしたがって設定されるものである。この問題意識がくせものである。実際問題として考えると、「テーマが絞れない」と言う人は、

 ①問題意識が曖昧
 ②自分の問題意識が卒論に通用するか自信がない
 ③問題意識が複数あって絞りきれない

のどれかであることが多い。こういう場合には、まず最初に「私の問題意識」という作文を書こう。あくまで作文である。イメージ先行でもかまわない。日本語の文章になっていればよい。それを教官に見てもらうのだ。ただし、前年度の4年生が卒業論文を提出する前に、つまり12月中に作文を書き上げて、持っていくことが重要だ。卒論審査が始まると教官は忙しくなるので、断られるのがオチである(いや、本当に断られるわけではないのだけれども、やはり、比較的忙しくない時期の方が、教官にも時間や気持ちにに余裕があるだろう)。そうすれば、自分の問題意識が何であるか、その問題意識をテーマ化する事が可能かどうか、修正すべきはどの点か、などについてアドバイスがもらえるはずだ。
さて、とにもかくにも自分自身の問題意識がテーマ設定のスタートラインである。この問題意識からテーマを明確化し、そして論点の設定へと進む。その時に考えるべきことは、以下の3点である。

 ①テーマの追求可能性(先行研究の有無)
 ②テーマを論じる意味・意義(社会的意義/自分にとっての意味)
 ③論点・問題点の提示(テーマに論点がなければ、論じることができない)

テーマや論点は、どのようなアプローチをするか、どのような参考文献が存在するかで、常に微修正(場合によっては大幅修正)される。だからアプローチの検討や参考文献探しなどと同時進行で、徐々にテーマを明確化し、論点を設定し、それらを修正して行く。そのような努力を経て、卒業論文のテーマが出来あがるのである。

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3.アプローチ術

 テーマ設定がなされたら、次はアプローチである。「アプローチ」とは、日本語に訳すと「接近」である。つまり、自分で設定したテーマや問題に対して、どのように接近していくか、ということだ。
問題に対してどのようにアプローチするかは、卒業論文のでき具合と大いに関係している。同じテーマであってもアプローチが異なれば、論文の中で論じる内容や最後にたどり着く結論、論文全体の印象がかわってくるのだ。だから、アプローチをどうするかは、執筆者の腕の見せどころでもある。問題を手堅く論じるもよし、面白く料理するもよし、意表を突いて読み手にあっと言わせるのもいいだろう。自分のセンスと蓄積(これまでに、どれだけ社会学を勉強したか)を信じて、自由な発想でアプローチ法を考えればいい。
 ただし、いくらアプローチは自由だといっても、適切でないアプローチ、使い古されたアプローチ、無謀なアプローチ、アプローチとしての体をなしていないアプローチなどを用いるのは好ましくない。アプローチを考えるに必要ないくつかの項目については、一応の確認しておこう。

  ①分析視角(どのような視点から、テーマや問題に切り込むのか)
  ②先行研究(どのような先行研究があり、どのような課題が残されているのか)
  ③分析方法(理論中心か、実証中心か、その内容はどのようなものか)
  ④データソース(比較対象を含め、どのようなデータを用いるか)
  ⑤アウトライン(構想段階では、章編成までいかなくてもよい)

 必ずしも、これら項目の全部をひとつひとつ細かく考える必要はない。これらはあくまで参考であって、信じるべきは、自らのセンスと蓄積である。乱暴な言い方をすれば、構想発表時に教官がアプローチを見るポイントは、「どれだけ面白い卒業論文が書けそうか」の一点である。上記項目にとらわれて、面白みのない「よい子の構想発表」になるということは、できるだけ避けたい。

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4.本・本・本

 卒業論文ではオリジナリティが求められる。しかし、論文の内容は、全部が全部オリジナルであることは滅多にない。むしろ、先人達の研究を丹念に調べ、これまで述べられきたことを整理する作業が、論文の大半を占める。その先人達の研究内容を整理し、解釈し、比較検討していく中でオリジナリティが生まれてくるのである。したがって、先行研究文献や関連研究文献を探し、手に入れ、読み解く作業は、卒業論文の必須課題である。探して手に入れるべき文献は、100冊以上という膨大な数になると考えてほしい。
 しかし、「そんなにたくさんの文献を探せとというけど、どうやって探せばいいんだ」と言う人は多いだろう。心配はいらない。頭で悩み考える前に、以下の方法で身体を動かしてほしい。以下の方法で文献をリストアップしていけば、とんでもないテーマを設定した場合を除いて、簡単に100冊を超える文献がリストアップされてくるだろう。

①芋蔓式検索法:
 芋である。なぜか芋である。しかし、最もオーソドックスな文献検索法である。専門書や学術論文を読むと、必ずどこかに、引用文献・参考文献のリストが付いている。これは、専門書や論文の著者が引用した、あるいは参考にした文献をリストアップしたものである。自分のテーマに近い本の文献リストを見れば、 10冊ほどの関連文献を見つけることができるだろう。その関連文献を入手し、その関連文献の文献リストからさらに参考になりそうな文献をリストアップする。この作業を何度か繰り返していけば、異なる本のリストに同じ文献がリストアップされていることに気づくだろう。多くの本でリストアップされている文献は、重要文献と考えてよい。そうやって、重要な参考文献と周辺的な参考文献を分けながら、自分だけの参考文献リストを作っていくのだ。

②書架に入る:
 大学というものは、本の固まりである。社会学研究室の書架には、一通りの社会学の本が揃っている。また、図書館には、あらゆるジャンルの学術書がある。社会学研究室の書架にせよ、図書館にせよ、いずれも本は分類番号順に排架されている。が、分類番号など覚える必要はない。とにかく書架に入って、本の背表紙を眺め、気になる本を手に取っていく。そうやって、自分に必要そうな本がどこにあるかを、身体で覚えていくのだ。卒論執筆は長丁場なので、いずれ読まなくてはならない本のありかを知る上でも、書架に入ることは有意味である。時間があれば、社会学の雑誌架、図書館の集密書架などもチェックしておこう。

③電算検索:
 図書館などで本を探す場合、昔はカードを1枚づつめくったものなのだが、最近はコンピューターを使って一瞬で目指す本を探すことができる。名古屋大学内にある1988年以降の文献なら、図書館の検索機でも、研究室のコンピューターでも検索は可能である。また、研究室のコンピューターを使えば、他大学の蔵書を検索することもできる。検索機に文献のタイトルや著者名、キーワードなどを入力すれば、どこに所蔵されているかがすぐにわかるので、本があるところへ借りに行けばいいのである(国立大学間では相互貸借も可能だから、図書館のレファレンスか学部の図書掛に申し込んでみよう)。

④おすすめ本:
 究極の手抜き検索法として、人に文献を紹介してもらうという手がある。社会学で卒業論文を書くのだから、社会学の文献を知り尽くした社会学の教官に本を紹介してもらえば、間違いはない。また、自分が扱おうとしているテーマを研究している大学院生も要チェックだ。テーマが同じ大学院生は、そのテーマの基本文献を大量に持っている(読んでいるかどうかは、保証の限りではない)。場合によっては、鮮度の高い裏資料を手に入れることも可能だ。ただし、この方法だけに頼ってはいけない。文献探しも卒業論文に必要な作業課題なので、教官は鍵となる文献しか教えてくれない。大学院生も、自分が研究に使う文献を持ち出されてはかなわないから、最低限の文献しか示してくれないだろう。したがって、この方法は、最初の1冊を見つけたいときなどに限って利用すべきである。あとは①や③の方法で文献の幅を広げていくようにしよう。

 最後に、ひとつ警告をしておこう。文献検索をやっているとキリがない。いつまでたっても文献を探しまくっているのはよくない。100冊程度ピックアップできたら、いったんは検索を打ち切るべきである。あとは必要になったときに必要な文献だけを探すという姿勢に徹しよう。「参考文献が多いのが、よい卒論」というものではないのだ。

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5.SOTSURON Resourse

 卒業論文を書くにあたっては、時間、お金、労力など多くの資源を動員しなければならない。しかし、自分ひとりがもてる資源を総動員してもなお、卒論の壁は高くそびえ立つ。そこで、他人の資源を利用する必要が出てくる。すなわち、教官の「お知恵を拝借」するのだ。授業料を払っているのだから遠慮はいらない。

 それでも「教官のところに行くのがコワイ」というのならば、大学院生を頼ることだ。まず、大学院生の得意分野などを調べて、誰に相談するかを考える。ここで選ぶ相手を間違っても心配いらない。誰に相談するのが一番いいか教えてくれるだろう。ただし、とんでもないテーマを選んだ場合は、たらい回しにされるかも知れない。

 教官や大学院生に相談しようとする場合、相談する内容を明確にしておく必要がある。理由は簡単で、相談内容がわからなければ、相談にのりようがないからだ。自分のやりたいことは何か。現在、どれだけの情報をもっているのか。卒論の作業がどこまで進んでおり、どこで止まっているのか。何がわからないのか。そういったことをレジュメにしてみる。文章でも、メモ書きでも、箇条書きでもかまわないが、自分がどのような「お知恵を拝借」したいかを相手に伝えるレジュメでなければならない。

 しかし、「あらためて相談をするほどではないが、話を聞いてもらいたいなぁ」と思うこともあるだろう。その場合は簡単だ。社会学研究室にたむろしよう。ヒマそうにお茶を飲んでいる大学院生が狙い目だ。でもって、自分もお茶でも飲みながら、雑談の中でさりげなく話を卒論にふってみよう。コンパなどの機会を利用するという手もある(酒癖の悪い大学院生は避けること)。話の最後には、後日相談にのってもらう確約をとっておけば、よりbetterである。雑談で得た情報は、大ざっぱであることが多いから、アフターサービスを要求するのは当然の権利である。そして、次回の相談までに、雑談で得た情報を元に頭の中を整理し、相談内容を明確化したレジュメを作っておけば、なおよいだろう。