第4章 構想発表に向けて

 1.残された時間は少ない
 2.テーマを決める
 3.アプローチ術
 4.本・本・本
 5.Sotsuron Resourse

1.残された時間は少ない

社会学講座への分属決定から卒業論文の提出までのスケジュールは、だいたい以下のようになっている。
《2年生》:
 まず、2年生の間に社会学の基礎体力を身につけておくことが大切である。この基礎体力の鍛錬を怠ると、いざ卒業論文を書くとき神にすがるしかなくなるのだが、あいにく社会学研究室には疫病神と貧乏神しかいない。

《3年生》:
 3年生にとっても、基礎体力の鍛錬が一番重要であるが、3年次の後半ともなると、テーマの決定や、先行研究の検討、資料収集をはじめたい。遅くとも、4年生が卒論を提出する1月頃には、テーマぐらいは決定しておくことが必要だ。

《4年生》
 4月初旬:構想発表用のレジュメ作成
 4月中旬:この頃から慌てて卒論に取りかかると、先生の視線が冷たく感じられる。
 4月下旬:卒業論文構想発表会
 5~7月:文献および資料の収集、論文の輪郭形成
 夏期休暇:資料の収集および論文の輪郭形成は、この時期までに終了していることが望ましい。
 調査を行う場合は、夏休み中に実施しなければ、絶対に手遅れになる。
 9月中旬:卒業論文中間発表会
 10~11月:第1稿執筆
 11月中旬:卒業論文題目を提出する。事前に文学部教務掛にて用紙を入手、社会学講座の指導教官の承認印を受けた後、期日までに教務掛に題目を提出する。提出しなければ卒論執筆資格はなくなる。また、提出した題目の変更は認められない。
 11~12月:改訂稿を執筆する。注釈リストや文献表の作成も忘れてはいけない。
 1月初旬:卒業論文提出期限(時間厳守)
 1月下旬:卒業論文発表会(がたぶんある)
 2月初旬:口頭試問(卒論要旨集原稿締切でもある)

 最初の関門は、4月の構想発表だ。これは、卒業論文のスタート地点ではない。構想発表に向けての準備は、何ヶ月も前に始めるべきものである。ところが、この準備作業を始めるのは4月から、というのが例年のパターンであり、構想発表時に「あえなく撃沈」する4年生が後を絶たない。いや撃沈ならまだマシで、「出港前に座礁」してしまうケースすらある。この悲惨な事態を避けるためには、とにもかくにも準備作業を早めに行うことである。諸般の事情を考えると、3年生の12月頃には準備を開始することが望ましい。作業日程に余裕があれば、不測の事態にも適切に対処できるし、早めに構想ができあがっていれば、いろいろな人からアドバイスをもらって、問題点を改善する事もできる。
さて、4月の卒論構想発表の際には、1週間ほど前にレジュメを提出する。これには、卒業論文構想の全体像が示されていなければならない。ここ数年のレジュメは、

 ①問題意識(テーマ設定とした方がよい)
 ②アプローチ
 ③参考文献(ちゃんと読んでからリストアップする)

 という構成になる傾向にある(なぜ、このような構成になったんだろう?)。以下、この構成順に、卒業論文構想の仕方について考えてみよう。

Return to page top

2.テーマを決める

問題意識よりも、テーマ設定あるいは問題設定と言った方がいいだろう。問題意識だと、「私は○○がやりたい」という自己主張で終わってしまうことが多い。
卒業論文のテーマは、卒業論文執筆者が自ら決定すべきものであって、教官といえどもテーマを強制することはできない。テーマ設定は、卒業論文の最重要課題のひとつなのだ。しかし、たいていの場合、このテーマ設定がなかなかうまく行かない。テーマ自体が決まらない場合もあるし、テーマが茫漠としている場合もある。
テーマは、自らの問題意識にしたがって設定されるものである。この問題意識がくせものである。実際問題として考えると、「テーマが絞れない」と言う人は、

 ①問題意識が曖昧
 ②自分の問題意識が卒論に通用するか自信がない
 ③問題意識が複数あって絞りきれない

のどれかであることが多い。こういう場合には、まず最初に「私の問題意識」という作文を書こう。あくまで作文である。イメージ先行でもかまわない。日本語の文章になっていればよい。それを教官に見てもらうのだ。ただし、前年度の4年生が卒業論文を提出する前に、つまり12月中に作文を書き上げて、持っていくことが重要だ。卒論審査が始まると教官は忙しくなるので、断られるのがオチである(いや、本当に断られるわけではないのだけれども、やはり、比較的忙しくない時期の方が、教官にも時間や気持ちにに余裕があるだろう)。そうすれば、自分の問題意識が何であるか、その問題意識をテーマ化する事が可能かどうか、修正すべきはどの点か、などについてアドバイスがもらえるはずだ。
さて、とにもかくにも自分自身の問題意識がテーマ設定のスタートラインである。この問題意識からテーマを明確化し、そして論点の設定へと進む。その時に考えるべきことは、以下の3点である。

 ①テーマの追求可能性(先行研究の有無)
 ②テーマを論じる意味・意義(社会的意義/自分にとっての意味)
 ③論点・問題点の提示(テーマに論点がなければ、論じることができない)

テーマや論点は、どのようなアプローチをするか、どのような参考文献が存在するかで、常に微修正(場合によっては大幅修正)される。だからアプローチの検討や参考文献探しなどと同時進行で、徐々にテーマを明確化し、論点を設定し、それらを修正して行く。そのような努力を経て、卒業論文のテーマが出来あがるのである。

Return to page top

3.アプローチ術

 テーマ設定がなされたら、次はアプローチである。「アプローチ」とは、日本語に訳すと「接近」である。つまり、自分で設定したテーマや問題に対して、どのように接近していくか、ということだ。
問題に対してどのようにアプローチするかは、卒業論文のでき具合と大いに関係している。同じテーマであってもアプローチが異なれば、論文の中で論じる内容や最後にたどり着く結論、論文全体の印象がかわってくるのだ。だから、アプローチをどうするかは、執筆者の腕の見せどころでもある。問題を手堅く論じるもよし、面白く料理するもよし、意表を突いて読み手にあっと言わせるのもいいだろう。自分のセンスと蓄積(これまでに、どれだけ社会学を勉強したか)を信じて、自由な発想でアプローチ法を考えればいい。
 ただし、いくらアプローチは自由だといっても、適切でないアプローチ、使い古されたアプローチ、無謀なアプローチ、アプローチとしての体をなしていないアプローチなどを用いるのは好ましくない。アプローチを考えるに必要ないくつかの項目については、一応の確認しておこう。

  ①分析視角(どのような視点から、テーマや問題に切り込むのか)
  ②先行研究(どのような先行研究があり、どのような課題が残されているのか)
  ③分析方法(理論中心か、実証中心か、その内容はどのようなものか)
  ④データソース(比較対象を含め、どのようなデータを用いるか)
  ⑤アウトライン(構想段階では、章編成までいかなくてもよい)

 必ずしも、これら項目の全部をひとつひとつ細かく考える必要はない。これらはあくまで参考であって、信じるべきは、自らのセンスと蓄積である。乱暴な言い方をすれば、構想発表時に教官がアプローチを見るポイントは、「どれだけ面白い卒業論文が書けそうか」の一点である。上記項目にとらわれて、面白みのない「よい子の構想発表」になるということは、できるだけ避けたい。

Return to page top

4.本・本・本

 卒業論文ではオリジナリティが求められる。しかし、論文の内容は、全部が全部オリジナルであることは滅多にない。むしろ、先人達の研究を丹念に調べ、これまで述べられきたことを整理する作業が、論文の大半を占める。その先人達の研究内容を整理し、解釈し、比較検討していく中でオリジナリティが生まれてくるのである。したがって、先行研究文献や関連研究文献を探し、手に入れ、読み解く作業は、卒業論文の必須課題である。探して手に入れるべき文献は、100冊以上という膨大な数になると考えてほしい。
 しかし、「そんなにたくさんの文献を探せとというけど、どうやって探せばいいんだ」と言う人は多いだろう。心配はいらない。頭で悩み考える前に、以下の方法で身体を動かしてほしい。以下の方法で文献をリストアップしていけば、とんでもないテーマを設定した場合を除いて、簡単に100冊を超える文献がリストアップされてくるだろう。

①芋蔓式検索法:
 芋である。なぜか芋である。しかし、最もオーソドックスな文献検索法である。専門書や学術論文を読むと、必ずどこかに、引用文献・参考文献のリストが付いている。これは、専門書や論文の著者が引用した、あるいは参考にした文献をリストアップしたものである。自分のテーマに近い本の文献リストを見れば、 10冊ほどの関連文献を見つけることができるだろう。その関連文献を入手し、その関連文献の文献リストからさらに参考になりそうな文献をリストアップする。この作業を何度か繰り返していけば、異なる本のリストに同じ文献がリストアップされていることに気づくだろう。多くの本でリストアップされている文献は、重要文献と考えてよい。そうやって、重要な参考文献と周辺的な参考文献を分けながら、自分だけの参考文献リストを作っていくのだ。

②書架に入る:
 大学というものは、本の固まりである。社会学研究室の書架には、一通りの社会学の本が揃っている。また、図書館には、あらゆるジャンルの学術書がある。社会学研究室の書架にせよ、図書館にせよ、いずれも本は分類番号順に排架されている。が、分類番号など覚える必要はない。とにかく書架に入って、本の背表紙を眺め、気になる本を手に取っていく。そうやって、自分に必要そうな本がどこにあるかを、身体で覚えていくのだ。卒論執筆は長丁場なので、いずれ読まなくてはならない本のありかを知る上でも、書架に入ることは有意味である。時間があれば、社会学の雑誌架、図書館の集密書架などもチェックしておこう。

③電算検索:
 図書館などで本を探す場合、昔はカードを1枚づつめくったものなのだが、最近はコンピューターを使って一瞬で目指す本を探すことができる。名古屋大学内にある1988年以降の文献なら、図書館の検索機でも、研究室のコンピューターでも検索は可能である。また、研究室のコンピューターを使えば、他大学の蔵書を検索することもできる。検索機に文献のタイトルや著者名、キーワードなどを入力すれば、どこに所蔵されているかがすぐにわかるので、本があるところへ借りに行けばいいのである(国立大学間では相互貸借も可能だから、図書館のレファレンスか学部の図書掛に申し込んでみよう)。

④おすすめ本:
 究極の手抜き検索法として、人に文献を紹介してもらうという手がある。社会学で卒業論文を書くのだから、社会学の文献を知り尽くした社会学の教官に本を紹介してもらえば、間違いはない。また、自分が扱おうとしているテーマを研究している大学院生も要チェックだ。テーマが同じ大学院生は、そのテーマの基本文献を大量に持っている(読んでいるかどうかは、保証の限りではない)。場合によっては、鮮度の高い裏資料を手に入れることも可能だ。ただし、この方法だけに頼ってはいけない。文献探しも卒業論文に必要な作業課題なので、教官は鍵となる文献しか教えてくれない。大学院生も、自分が研究に使う文献を持ち出されてはかなわないから、最低限の文献しか示してくれないだろう。したがって、この方法は、最初の1冊を見つけたいときなどに限って利用すべきである。あとは①や③の方法で文献の幅を広げていくようにしよう。

 最後に、ひとつ警告をしておこう。文献検索をやっているとキリがない。いつまでたっても文献を探しまくっているのはよくない。100冊程度ピックアップできたら、いったんは検索を打ち切るべきである。あとは必要になったときに必要な文献だけを探すという姿勢に徹しよう。「参考文献が多いのが、よい卒論」というものではないのだ。

Return to page top

5.SOTSURON Resourse

 卒業論文を書くにあたっては、時間、お金、労力など多くの資源を動員しなければならない。しかし、自分ひとりがもてる資源を総動員してもなお、卒論の壁は高くそびえ立つ。そこで、他人の資源を利用する必要が出てくる。すなわち、教官の「お知恵を拝借」するのだ。授業料を払っているのだから遠慮はいらない。

 それでも「教官のところに行くのがコワイ」というのならば、大学院生を頼ることだ。まず、大学院生の得意分野などを調べて、誰に相談するかを考える。ここで選ぶ相手を間違っても心配いらない。誰に相談するのが一番いいか教えてくれるだろう。ただし、とんでもないテーマを選んだ場合は、たらい回しにされるかも知れない。

 教官や大学院生に相談しようとする場合、相談する内容を明確にしておく必要がある。理由は簡単で、相談内容がわからなければ、相談にのりようがないからだ。自分のやりたいことは何か。現在、どれだけの情報をもっているのか。卒論の作業がどこまで進んでおり、どこで止まっているのか。何がわからないのか。そういったことをレジュメにしてみる。文章でも、メモ書きでも、箇条書きでもかまわないが、自分がどのような「お知恵を拝借」したいかを相手に伝えるレジュメでなければならない。

 しかし、「あらためて相談をするほどではないが、話を聞いてもらいたいなぁ」と思うこともあるだろう。その場合は簡単だ。社会学研究室にたむろしよう。ヒマそうにお茶を飲んでいる大学院生が狙い目だ。でもって、自分もお茶でも飲みながら、雑談の中でさりげなく話を卒論にふってみよう。コンパなどの機会を利用するという手もある(酒癖の悪い大学院生は避けること)。話の最後には、後日相談にのってもらう確約をとっておけば、よりbetterである。雑談で得た情報は、大ざっぱであることが多いから、アフターサービスを要求するのは当然の権利である。そして、次回の相談までに、雑談で得た情報を元に頭の中を整理し、相談内容を明確化したレジュメを作っておけば、なおよいだろう。

第3章 引用のルール

 引用の方法(省略)
 文献リストの作成:基礎編(省略)
 文献リストの作成:実践編:(省略)
  ⇒ より詳しいものがTATSUJIN編に記載されているため、ここでは省略する。以下のリンクを参照。

 第3章 論文の書き方
 第4章 文献リストの作成(Harvard Style)

第2章 レポートの書き方

レポートとは何ぞや? そんな難しい話はやめよう。とにかく「レポートを制するものは卒論を制す」という格言を信じるのだ。さて、そうなると、レポート執筆に際して修得すべき課題が出てくる。それは、

 ①問題設定能力
 ②文献調査能力
 ③文章構成能力

という3つの能力の修得である。こういうと難しそうに聞こえるが、しかし、別に無理難題を押しつけているわけではない。とにもかくにも、以下で説明することをやってみよう。可能な部分から徐々にでかまわない。レポートの出来が悪くても、2・3年生の間に3つの能力を修得できたなら、それは卒業論文に結びつくだろう。

 1.問題設定
 2.参考文献を探す
 3.アウトラインの作成
 4.論文の形式を整える

1.問題設定

 問題設定能力とは、レポートにおける論点を設定する能力、平たく言えば、レポートで論じるテーマ/課題を決める能力のことだ。
 こう言うと「レポートのテーマや課題は、先生が言ったとおりに決まっているではないか」と反論されるかもしれない。しかし、例えば「教育問題について述べよ」というレポート課題が出されたとき、教育問題を十把ひとからげにして論じるというのは無謀である。教育問題には、管理教育、登校拒否、いじめ、少年犯罪、校内暴力、家庭内暴力、拒食症、受験戦争、塾通い、教育困難校など、様々なものがあるのだ。それらの問題のうちどれかに絞り込まないと、教育問題を論じるレポートは書けないだろう。
 レポートは、「ワンレポート・ワンイッシュー」でなければならない。つまり、1本のレポートでは、ひとつの論点に限り論じるという姿勢を貫くのだ。論じるべき問題を出来るだけ絞り込み、それについてのみ、深く掘り下げて論じようとすることだ。
 レポートでは教育問題の中で何に注目するか、どの一点に問題点を見出だすか、それが問われているのである(このような出題者の意図を読むことも大事だ)。管理教育にテーマを絞ってみても、どこに注目するか、何をどこに問題点を見出だすか、どのような結論を目指すかで、レポート全体の内容が異なってくる。つまり、課題に沿いつつも、「何をどのように論じるか」をより絞り込み、明確にしなければレポートは書けないのである

Return to page top

2.参考文献を探す

 問題/論点が設定されれば、次は必要な情報収集、つまり参考文献を探すことである。この文献探しは、卒業論文を書く際の重要な作業になるから、レポートを書く際に、しっかりと身につけておきたい。
さて、課題図書を要約して評価する、ある問題についてあれこれと調べた上で考察するなどなど、レポートには様々な種類がある。しかし、どのようなレポートでも、参考文献は探さななければならない。レポートの出題パターン別に、参考文献探しの必要性を見てみよう。

①テーマは指定されているが、課題図書は指定されていない場合
 この場合、レポート出題者の意図は簡単明瞭、「あるテーマについて、自分の力で文献等を調べて、何か論じろ」ということである。当然ながら、参考文献を自力で探して読みこなすことが期待されている。単位が欲しかったら、すぐに文献探しに取りかかろう。

②課題図書が指定されている場合

 この場合、「文献を探そう」というと、「でも課題図書は先生が指定しているのに、別の本を使うとヤバクない?」という心配が聞こえてくる。もちろん課題図書は「課題」ゆえに読まなくてはならない。しかし、「別の文献を使ってはダメ」などとは誰も言っていない。心配だったら、レポートが出された時点で、参考文献の使用について、教官に質問すればいい。
 レポートで求められているのは、課題図書の要約でも読書感想文でもない。課題図書の内容について、批判なり擁護なりをすることが求められている。当然、批判や擁護の論拠も示さなくてはならない。
 ところが、例えば、課題とされたマックス・ウェーバーの本を、社会学を1~2年やっただけの頭で、批判や擁護することは、非常に困難だ。そこで、マックス・ウェーバーに関して述べている参考文献を登場させる。例えば、マックス・ウェーバーを批判している文献と擁護している文献の双方を探しだし、レポート上でそれらの論点を対決させ、最後に判定を下す。それで、まともなレポートが1本出来上がる。

③課題図書が難解な場合<

 課題図書が難解である場合、力技で無理矢理読み、課題図書の内容を理解せぬままに意味不明のレポートを書くということがある。努力は認めよう。しかし、それは無駄な努力の天然色見本である。つまり、そのようなことは、きわめて非効率なのである。レポートの課題図書は、それを読んで内容を理解し、批評してもらいたいから、課題として設定されるのである。だから、力技で無駄な努力をするより、課題図書を読む前に、入門書や解説書を利用して内容を理解した方が、よほど誠意があることになる。
 もし、入門書や解説書によって課題図書の内容を理解することがためらわれるのなら、レポートの中で、参考文献として引用してしまえば良い(引用の方法は、第3章参照のこと)。入門書や解説書も、立派な文献である。ルールを守り正々堂々と利用すれば、何も問題はない。

④自由課題の場合

 自由課題の場合は、必ず参考文献を探そう。参考文献なしに「論」を組み立てると、ほとんどの場合、青年の主張か人生論に終わってしまう。もちろん、「自分の主張をするな」ということではない。「主張だけではダメ」なのである。論理的あるいは実証的に、主張の裏づけをしなければならない。その時に、テーマに関係する文献を読み、自分なりに整理してまとめるという作業が必要となるのだ。この作業を行えば、自分の主張が単なる主張で終わることはないだろう。

⑤文献の探し方

 さて、肝心の文献検索方法だが、いろいろな方法がある。しかし、最初に必要なことは、文献に触れる、足を使って文献を探し、実際に手に取ってみることである。
 レポートで利用する文献は、数冊で十分だ。ただし、使えない文献を見つけてしまうこともあるから、10冊ぐらいは確保しておきたい。卒業論文のための文献検索方法は第4章4節で紹介しているのだが、10冊程度の文献なら、その方法を用いるまでもない。まず、図書館なり研究室なりの書架に入り、めぼしい本を片っ端から見ていく。ポイントは、タイトル、目次、そしてカンである。つまり、

  ①タイトルを見て、レポートに必要そうな本かどうかを判断する。
  ②目次を見て、レポートに利用できるかを判断する。
  ③最後にカンで、レポートに使うかどうかを判断する。

 ①の段階で、10~15冊程度、選び出す。しかし、タイトルだけでは内容が判断できないから、②の段階で、その10~15冊の目次を見る。そうすればレポートに関係するかどうかが判断できるはずである。目次だけでわからなかったら、まえがきあるいは序論に目を通してみよう。まえがきや序論はその本の要約のような役割を持っているから、その部分を読んで判断材料にすればよい(あとがきには本を執筆した意図や経緯などが書かれている場合があるので、こちらにも目を通した方がよい)。この段階で5~6冊に削ろう。そして、最後はカンで、2~3冊に絞り込む。自分のカンで、「面白そうだ」と思った本の方が、読書の際の集中力が長続きする。いくら役立つはずの文献でも、読む気がないなら読まない方がマシだ。
 ここで注意すべきは、あなたがレポートに必要としている文献は、他人も必要としているということだ。しかし、書架にある文献は多くても2~3冊である。つまり早い者勝ちなのだ。めぼしい文献を手に入れるためには、早く行動すること、これに尽きる。

Return to page top

3.アウトラインの作成

 テーマが決まり、必要な文献が揃った。次はいよいよ執筆である。しかし、ちょっと待って欲しい。レポートとはあくまで論である。限られた枚数の中で、問題設定から結論までを、論理展開しなくてはならない。そのためのレポートの見取り図、どのような道筋で、何を書くのかを示した地図を作る必要がある。これをアウトラインと言う。
 レポートのアウトラインのパターンは、基本的には以下のようになる。これはレポートだけでなく、卒業論文や、学術論文でも同じである。

  ①序論/問題設定(問い)
  ②本論/展開
  ③結論/回答

 一般に、「文章構成は起・承・転・結が正しい」といわれるが、これは漢詩の構成であり、論理展開をするレポートや論文の構成としては、正しくない。「ワンレポート・ワンイッシュー」の姿勢に徹するなら、①序論で問題設定をし、③でその問題に対する回答を行うとパターンになる。そうすると、①問いと③回答を結びつけるような②本論を展開する必要が出てくる。
 この本論は本文の8割以上を占める部分であり、道に迷いやすい部分でもある。本論部分は、読み進むにしたがって徐々に結論に近づいていくというパターンが望ましい。だから、本論部分を書く際には、大ざっぱでもいいから必ず地図が欲しい。
アウトラインの地図には、フローチャート式(展開を矢印で繋いだもの)と項目式(レポートの目次のようなものを作る)がある。いずれの場合も、書くべき項目をピックアップして、それを並べてみるという作業である。これを作っておけば、必要な項目を書き落とすことはない。また、書いている途中で進むべき方向を間違ってしまい、予定した結論にたどり着けないということを未然に防げるだろう。

Return to page top

4.論文の形式を整える

 注意すべきは、日本語の問題(実は、論文の形式以前の問題なのだが)であり、それには3点ある。

  ①字は丁寧に書く
  ②誤字脱字をなくす
  ③正しい日本語の文章を書く
   a.主語と述語の対応関係を正しくする
   b.一文を、短くする

 まず①について、当然の礼儀として丁寧に書かなければならない。字が下手な人は特に丁寧に書きたい。きれいでなくてもいいから、出来るだけ読みやすい字で書くという姿勢で臨むべきである。次に②についてだが、確かにどれだけ努力しても、ある程度の誤字脱字は必ず出てくる。しかし、1ページに3つも4つも誤字脱字があると、あなたのレポートに対する姿勢が疑われる。したがって、書き終えてから、一文づつ丁寧に誤字探しをする必要がある。そして③の、日本語を正しく書くことである。主語と述語の関係、および文章の長さには特に注意したい。主語と述語との関係が正しくないと、読み手は文意がとれない。また、長い文章は読みづらいから、一文を短くするよう心がけたい。
 日本語の問題を解決するためには、手書きの場合は清書の前に下書きをすること、ワードプロセッサを利用する場合は、書き終えたらいったん打ち出し、音読することである。早い話が時間をかけることだ。確かに面倒な作業ではあるが、これをするとしないとでは、レポートの出来が全然違ってくる。

 日本語の問題をクリアしたら、いよいよ、本格的に学術論文としての体裁を整えよう。

  ④引用形式を整える
  ⑤表紙とタイトルをつける

 参考文献から引用する場合は、④引用のルールを守ること(第3章参照)が重要だ。自分で書いた文章と他人がどこかで書いている文章を明確に分けること、自分の考えと他人の考えを明確に分けることは、何かを論じるときの最低限のルールである。レポートは、当然書いている人自身の論であるから、その中に他人の文章や考えが割り込む場合は、それを明記することになる。もしそれをしなければ、「瓢窃だ」といわれても仕方がない。もちろん、いくら引用のルールを守っていても、引用だらけの「人力コピー」は、レポートの名には値しないことはいうまでもない。

 あと、意外と忘れがちなのが、⑤表紙とタイトルである。教務掛に提出する場合は、教務掛所定の表紙があるが、これは教務掛の整理用の表紙である。だから、教務掛用の表紙とは別に、正式の表紙をつけた方がいい(ただ、紙のムダ遣いのような気もするが….)。表紙には、必ずタイトルと氏名を書く。講義名や提出日なども書いた方がいいだろう。ここでよくありがちなのは、タイトルの部分に、「○○学レポート」というように、講義名をタイトルにしてしまう、あるいは教官が出した課題をそのままタイトル部分に書いてしまうということ。これは望ましくない。できることなら、「自分が何について論じているのか」を読み手にアピールするような、そして読み手が「面白そうだ」と思うようなタイトルを、自力で考えたい。
 そして、常識的なことなのだが、絶対に忘れてはならないことをいくつか述べておこう。以下のことは必ず守って欲しい。

  ⑥綴じる(レポートだったらホッチキス使用が無難)
  ⑦ページ数を打つ
  ⑧手書きの場合、鉛筆書きで提出しない
  ⑨ワードプロセッサを使用する場合、感熱紙のまま提出しない

 そして最後にして最大の重要ポイントは、

  ⑩締切を守る

 である。

第1章 はじめの一歩

 1.TATSUJINへの道はレポートにあり
 2.SHINJINのための文献ガイド

1.TATSUJINへの道はレポートにあり

 毎年のことなのだが、卒業論文を書き終わった4年生が口にする言葉は「時間がなかった」である。そして後輩へのアドバイスも、決まって「早めに取りかかった方がいい」である。また、教官も「早めに卒論の準備をするように」といつも言っている。
 しかし、「じゃあ、早めに卒論に取りかかろう」と思っても、実際に何をどうすればいいのか、誰も教えてくれない。過去に卒論を書いた経験などないから、何が何だかさっぱりわからない。「まじめに勉強すれば、まともな卒論が書ける」といわれることもあるが、受験勉強式に「まじめに」勉強しようものなら、「勉強の仕方が間違っている」と指摘されるのがオチだ。では、どうやったら、まともな卒業論文が書けるのか。どのようにしたら、「卒業論文のTATSUJIN」への道を、堂々と歩むことができるのか。
 実は、大学教育の中には、卒業論文のための訓練機会がもうけられている。それをレポートという。正しいレポートの書き方を知っていれば、その経験が卒業論文の執筆に役立つのである。「レポートを制するものは卒論を制する」のだ。確かに、レポートを書ける程度で「卒業論文の TATSUJIN」を名乗ることは出来ない。せいぜいBONJINである。しかし、そのBONJINになることが、「卒業論文のTATSUJIN」になるための前提条件なのだ。
 そう、この冊子は、レポートを制し、「卒業論文のBONJIN」になるための道案内の書なのである。

2.SHINJINのための文献ガイド

 社会学の入門書は数多い。しかし、その大半は社会学の概説書である。確かに、社会学を学ぶ上で概説書はなかなか便利である。便利ではあるが、肝心な社会学の勉強の仕方が書かれていない場合が多い。あたかも「高校までの受験勉強式にテキストを読め」と言わんばかりに、延々と説明が続くのである。これではまじめに勉強しても、「よい子の作文」レベルの卒業論文しか書けない(もちろん、だからといって概説書を読まなくてもいいわけではない)。
 「卒業論文のTATSUJINを目指そう」と意気込むあなたは、概説書の読み方も含め、社会学の勉強の仕方を学ぶべきである。そのために、これからいう本を買い、読んでほしい。まず最初に、国語辞典である。レポートや卒業論文中の誤字脱字などは、社会学以前の問題である。国語辞典は、こういった問題を事前に防ぐ際に、役立つものである。その意味では、漢和辞典もあった方がいいだろう。それから次の本のどちらかを購入する。

木下是雄, 1981, 『理科系の作文技術』, 中央公論社(580-)
木下是雄, 1994, 『レポートの組み立て方』, 筑摩書房(757-)

  『理科系の作文技術』は、定番本であり、文科系でも利用されている。『レポートの組み立て方』は、『理科系の作文技術』をより汎用化したものである。いずれも、生協書籍部に行けば、必ず手に入れることができる。ただし、買っても読む必要はない。いや、この本に関しては読んではいけない。クソマジメにアンダーラインを引きながら精読するなど、非効率である。この手の本は、机の上に置いておけばいいのである。基本的に国語辞典を同じと思ってよい。つまり「読む」ためではなく、「ひく」ための本だと思ってほしい。実際にレポートを書く段階になって、パラパラとめくりながら、必要な項目に目を通せばよいのである。
さて、机の上に国語辞典とレポートの書き方の本がそろえば、いつでもレポートや卒業論文の執筆を始めることができる。そこで次は、社会学の勉強の仕方、レポートや卒業論文を書くときの技術や心得、思考術などを身につけたい。最初に読みたいのは、

野村一夫, 1995, 『社会学の作法・初級編』, 文化書房博文社(1,359-)

 である。社会学で卒業論文を書くなら、社会学の研究作法を知る必要がある。この本は、読書の仕方、文献のさがし方、レポートの書き方、論述試験の答案の作り方など、社会学を学ぶ作法を丁寧に説明している。卒業論文を書くための基礎体力養成術を記した必読書なのだ。しかし、精読の必要はない。とりあえずは、エッセイを読む気分でさらっと読み、本棚にたてておけばよいだろう。いずれ、レポートや卒業論文を執筆するときに読み返したくなるはずだ。
野村氏の本を読んだら、次にレポート作成に限って、もう少し技術や心得を知っておきたい。ということで、

久田則夫, 1996, 『ノリさんの楽々レポート作成術』, 大揚社(1,800-)

 を読んでみよう。本来は社会福祉系の学生・職員などのために書かれた本であるが、学ぶべきところは多い。特に、レポートとは何か、どのようなことをを書けばいいか、文献をどうやって探すのか、どのような点に注意してレポートを書けばいいか、などを懇切丁寧に説明してくれている。この本を読んでいるか読んでいないかで、レポートの出来が全く異なってくるくらい、丁寧に論じている。しかも、読みやすい。この本も精読するのではなく、とりあえず斜め読みでかまわない。技術的な詳細は、読み飛ばしてもよい(引用の仕方などは、この冊子あるいはTATSUJIN編に準拠することが望ましいので、読まなくてよい)。読み終わったら、『社会学の作法・初級編』の横に立てておこう。
レポートの技術や心得についての情報を得たら、次は、思考方法についての本を読もう。この類の本としては、

苅谷剛彦, 1996, 『知的複眼思考法』, 講談社(1,456-)
H.ゼターバーグ, 1973, 『社会学的思考法』, ミネルヴァ書房(絶版)

 が、優れている。苅谷氏の本は折原先生推薦の1冊である。野村氏や久田氏の本が初級だとしたら、これは中級編にあたる。ゼターバーグの本は、松本先生の推薦の本で上級編にあたる。現代版『社会学的方法の基準』と言ってもよいくらいの本で、社会学研究者にとっても参考になる。ただし、1973年発行の古い本であり、残念ながら現在は絶版である(ミネルヴァさん、早く復刻してください)。図書館などを探してコピーするべし。この中級編と上級編も、基本的には斜め読みでよい。そして本棚に立てておこう。
 さて、ここまでくれば、机の上には辞書と読んでない本が1冊、本棚には斜め読みした本が4冊あるはずだ。これだけのことをしていれば、卒業論文のTATSUJINへの第一歩を踏み出したことになる。この後なすべきことは、上述の本に書かれていたことを参考に、試行錯誤しながら、あなた自身が学ぶスタイルを作り上げることである。もちろん、そのスタイルはマニュアル通りである必要はないことは言うまでもない。
ちなみに、卒業論文について知りたい人のために、おもしろい本を紹介しておこう。多少、ふざけたタイトルであるが、

川崎賢一・藤村正之編, 1992, 『社会学の宇宙』, 恒星社厚生閣.

 という社会学の概説書がある。書かれている内容も、多少悪ふざけ的な面があるが、それがかえっておもしろい。この本の第6章は「社会学戦士としてのファースト・トライ–卒論プロセス・シュミレーション–」と題され、卒論の書きはじめから提出までがシュミレートされている。卒論を書く際に生じ得る様々なトラブルまで「ちゃんと?」論じているところが、実にいい。例えば、テーマが決まらないとか、ワープロのプリンタが壊れたとか、文献リストをつくり忘れたとか、時間がないなど、どこかで聞いたような、誰かがやったような事例が書かれている。そうならないためにはどうすればいいか。その方法を教えてくれる貴重な1冊である。第6章を読むためだけに購入してもいいだろう。値段は税抜き1800円である。

はしがき

松本 康

 「レポートの書き方」。そんなことまで指導するのか....。小生の学生時代、レポートの書き方を教わった覚えはない(だからいい加減なレポートを書いていた?)。どんなレポートを書いていたかほとんど覚えていないのだが、今から考えてみると、単位を取るためにやむなく書いたレポートと、内容的に興味があって結構ノッて書いたレポートがあったように思う。しかし、いわゆる「形式」は学術論文を見て、見よう見まねで覚えてきた。

 以前の学生なら、模倣で身につけていたことを、近年はマニュアル化しなければならない。一体どうしてなんだろう。一昔前の話になるが、北川隆吉先生の演習で夏休みの宿題に「学術書を1冊読んでレポートを書け」という課題があった。学生たちが「学術書」と「一般書」の区別がつかず戸惑っていたところ、誰が言い出したのか「ハードカバー」のものが学術書、「ペーパーバック」が一般書という識別法が開発された。当時はなるほどと感心していたが、最近では、どちらともつかない中間的なものが多く出回るようになり、ハードカバーが良い本であるとは限らなくなった。学術書のバウンダリーが曖昧になり、学生から見てしかと学問の世界を見据えることが難しくなってきたのである。従って模倣すべきモデルを見まちがう可能性も増してきている。

 さて、教師の立場から言うと、①レポート課題は授業と連動しており、②レポートは教官が読むものである、という基本を踏まえて欲しい。授業とレポート課題との関連のさせ方はそのときによって一様ではない。授業で触れられなかった点を補うためのレポート課題もあれば、講義内容の総括としてメインテーマにかかわるレポート課題もある。授業との関連を「読む」ことが「良い」レポートを書く基本であろう。授業をさんざんさぼっていて、レポートだけ出せば単位がもらえるなどと考えるのは大きな誤りである。

 第2は、レポートを読む人は原則として教官一人であるという事実である。ある本についてレポート課題を出すと、たいていその内容を要約したものが提出されるのであるが、読む身になって考えて欲しい。同じ本の要約を何十と読まされることになる。気の利いたコメントの一つでもないと、徒労感だけが残ってしまう(だから、最近は、本を読めというレポートを課さない。その結果学生は本を読まない?)。小生が課すレポートはたいてい調査レポートである。この場合、調査課題はいくらか漠然としたものであるが、それは何か新しい発見を期待しているのである。学生の調査レポートがきっかけで、本格的な調査に発展したことも一度ならずあった。高校までの理科の実験のように、結果の分かっていることを体験してみよという課題は、通常出さない。それは宿題の範疇だと思っている。

 レポートは、ある授業の文脈の中で、その授業の担当教官に向けて書くものである。それは授業における学生側の応答なのである。この点をしっかり踏まえておけば、そうひどいことにはならないだろう。スキルは意識さえしていれば自ずと覚えられるはずである。あまりマニュアル化しすぎて、金太郎飴のようなレポートを読まされることだけは避けたい。