ひーろい、ひーろいインディアの
野原のなかにただひとつ
小さな駅がありました
駅長さんのサンダーと
荷物係のチャトナーと
たった二人で住んでいた
一日一度、汽車が来て
たまに荷物の上げ下ろし
退屈まぎれに、ある時は
十里はなれたその次の
駅に電話をかけてみて、
ゆうべの月はよかったね!
今朝のおかずに何食べた?
まだ続いたかもしれないが、覚えていない。これは七十余年前に、祖母・柴田千田(しばた・ちた、1852-1924)がよく聞かせてくれた歌である。
昨日、ふとテレビをつけると、NHKが「はるばると世界旅」という番組をやっていた。はじめから見たのではないが、それはオーストラリアの大陸横断鉄道の鉄道員をリポーターが訪ねていくシーンだった。そこに映し出された光景は、幼かった私がこの歌を聞くたびに、いつのまにか頭のなかで思い描いた景色とそっくりではないか。
見渡すかぎり何もない、野原のなかの一本の鉄道。たった一人の鉄道員が、長い長い列車を点検して歩いている。連結の部分のねじを締めたり、貨物のシートを締めなおしたりしている。一時間くらいかけて点検がすむと、静かに列車は出発してゆく。列車の横腹には Indian Pacific とあった。
私が四、五歳のときに想像した世界がそのまま現代の地球上にあるなんて、全く不思議で、息をのんで見つめていた。それにしても嘉永五年生まれの祖母が、いったいこの歌をどこで聞き覚えたのであろうか。聞く由もない。
(1995年7月2日)
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